カテゴリー: 書籍

なんみんハウス資料室便り 20号

ナディア・ムラド(吉井智津訳)『THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、戦い続ける女性の物語』東洋館出版社、2018年11月

まちライブラリー@RAFIQの資料室室長nonomarunです@「資料室に本棚欲しい」ひとりキャンペーン中。


前回いつだったしらん、と探してみたら、2018年2月19日(19号)配信以来の…資料室便りでございマス。。。わー、ギリギリ一年超さなかったね!と自分を褒めてみました。時々ですが直にお会いした方に「室長便り、楽しみにしています!」って言われて有頂天になり、すぐ書くぞ!と拳を握った決意は雑事に紛れ。でも、春頃からRAFIQのHPは大大大リニューアルするので、がんばっていこうかと!


今回ご紹介するのは、2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんの自伝です。


ナディア・ムラド(吉井智津訳)『THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、戦い続ける女性の物語』東洋館出版社、2018年11月


内容はもうぜひ皆さんに本を読んでいただきたいし、平和賞受賞などであちこちでも記事で取り上げられていますので、そちらを。https://www.asahi.com/topics/word/ナディア・ムラド.html?iref=pc_extlink

前文に、ナディアを公私ともにサポートしている人権弁護士のアマル・クルーニー(俳優ジョージ・クルーニーのパートナー)が、素晴らしい寄稿文を載せています。アマルがナディアとともに出席した国連での感動的なスピーチも、ぜひ。https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/isis-102.php

彼女も「一人の人間として助けを求める声を無視することを恥ずかしく思う」と言っていますが、室長も、この本で一番印象に残っているのは、ナディアたちがトラックに詰め込まれて連れて行かれた街で、イラク市民が普通に、何事もなくショッピングをしたり日常生活をおくっている姿が、レイプなどの壮絶な体験以上に彼女の心を打ちのめしたことです。たくさんのヤズディ教徒の若い女性達に何が起こっているのか、彼らは知っているにもかかわらず、また性奴隷として売られた家の使用人や妻達が、同じ「女性」であるにもかかわらず、やさしいまなざし一つもみせずに、存在を無視されて続けていたこと(反対に彼女の脱出を、命をかけて助けた人びともいました)。彼らもIS支配下での恐怖があり、意志を示せなかったのかもしれないと想像しつつも、それが本当に彼女にとって辛いことであった。つまり、人びとの「完全なる無関心」が彼女の心をえぐり続けていた、という事実です。 それって、、、難民のみならず人権問題での「当事者」に対する、日本社会の無関心と同じ構図ではないかと、ナディアから問われている気がしました。


ナディア本人のドキュメンタリー映画が、2月から公開されます。『ナディアの誓い ーOn Her Shoulders』関西では京都と大阪で、3月から上映されます。東京ではトークショーもありますね。ぜひ、映画館にも足を運んでみてください。http://unitedpeople.jp/nadia/

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なんみんハウス資料室便り 19号

今泉みね子『ようこそ、難民! 100万人の難民がやってきたドイツで起こったこと』合同出版、2018年2月 

みなさん、こんにちは。
なんみんハウス資料室室長nonomarun@前回18号の配信が9月8日だから、5ヶ月ぶりだねっ!って…(>_<)スイマセン…。


本屋があれば、とりあえず入って本の匂いを嗅ぐ、というのが室長の素敵な習慣ですが(自分で言う)、平積みで目に飛び込んできた最新刊…なぜならタイトルが『ようこそ、難民!』。

市民啓発系イベントで、コラボ企画をする場合、先方から「“ようこそ、難民!”というのをバーン!!って表に出したいんですっっ!」と提案されることがあります。もちろん、RAFIQでもこのキャッチフレーズを使ってきました。しかし最近は、「あ〜、そうなんですね〜。確かに日本に来てしまった人に対してはこう言いたいし、そういう支援をしてるんですけど、もう外に向かっては…」と説明することが多いのです。そして打ち合わせの雰囲気は、徐々に暗くなっていく…。

もちろん世界各国の社会事情や超えてきた歴史が違うのは当然で、単純に難民受入数だけで、その善し悪しを比較し断ずることはできません。しかし、日本中が一喜一憂しているこのオリンピックの最中に発表された法務省発表の速報値では、2017年の難民認定申請者は2万人弱、そのうち認定はたったの20人でした。メダル獲得数が大騒ぎされる側で、ほとんど0%の難民認定率をキープしつづける日本。さらに去年末から始まった難民認定審査基準の改悪により、生きるための就労もできず、最終的には入管に収容される難民が増大する事態になりつつあり、最近は、そもそも難民認定申請をすることすら拒否される事例が増えています。

難民を庇護する義務を負う「難民条約」を批准しているにも関わらず、こんなにも難民に対して、人権を無視した冷たく酷い仕打ちを続ける国だから、もはや世界に向けて「ようこそ、難民!」とは言えず、むしろ「こんな日本に来たら、だめ!」と周知してもらうのが、いま一番の難民支援なのではないか…?というのが、支援者の共通認識になりつつある現状のなかで、皆さんはこの本を読んでどう思われるでしょうか。けれども、この本の中では、普通の生活をおくりながら登場人物達が、家族と、友達と、先生と、社会と真剣に難民受け入れについて、いろんな立場から本気で考え討論している。日本政府を弾劾する前に、そもそも私たち日本社会に、私たち個人に、他者に目を向ける意識からして欠落しているのではないか、と思ったりもします。

今泉みね子『ようこそ、難民! 100万人の難民がやってきたドイツで起こったこと』合同出版、2018年2月 

難民がドイツにたどり着くまで(※避難ルートの地図)

1      マックス、タミムと知り合う

2      ことばを見つけ、交換する

3      なぜドイツは難民をたくさん受け入れるの

4      高まる反対の声

5      アフガニスタン人の家族

6      イースターの大討論会

7      1945年のドイツ

8      難民はテロリスト?

9      習慣のちがいがトラブルをよぶ

10   ドイツ人になる

11   知り合い混じり合ってくらす

あとがきと解説

ある日マックスは、公園でドイツ語を話せないシリア人のタリムと出会います。その後タリムや他の難民が次々とマックスの学校へ転入してくることで、クラスで難民と仲良くなる子、いつまでも苛める子を通して、マックスの日常に様々な波紋が生まれていきます。子どもたちも、直に難民の子達と接することで、テレビでみたニュースが身近に感じられ、先生や家族に次々と素朴な疑問をぶつけていく。マックスの家族も、それぞれ難民受け入れに対しての意見が違い、マックスは家族から改めてたくさんのことを学び考えます。

第二次世界大戦後にドイツ難民だった母方のおじいちゃん、難民受け入れに難色を示す人口の少ない田舎に住む父方の祖父母、文化の違いなどとぶつかりながら難民支援を始めたお母さん。そのほか、妻がドイツ語を習得しドイツ女性の価値観を身につけ始めて、ぎくしゃくし始めるムスリム家族、認定を受けた人の喜び、受けられなかった人の絶望、テロ事件や難民との多発する諍いにより、難民排除に傾いていくドイツ社会や、難民保護施設に放火するなど実力行使にでていくドイツ人、それでも人として繋がり共に社会で暮らすために努力する人びともいる。

本書は実際の事件や取材から描かれた物語だから、登場人物の声は、読む私たちに「で、あなたは、どう思うの?」と、直接問いかけてきます。

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なんみんハウス資料室便り 18号

オルタナ『alterna 49号』2017年8月

みなさん、こんにちは。なんみんハウス資料室室長nonomarun@今日は資料室から生中継!新品エアコンで自分ちより快適だ〜(きてね)! です。

資料室の本棚もいっぱいになってきました!この調子でいけば、年内には本がギューギューになって、エアコンの次は「新しい本棚が欲しいですひとりキャンペーン」を張ることになりそうな予感。。。でも自分ちから大量に本を持ってきているのに、なぜワタクシの部屋の本の筍は伸び続けているのでしょう?

今回ご紹介するのは月刊誌『オルタナ』49号(2017年8月号)の「難民・人権問題で企業は無力か」特集号。本文にもありますが、この題名は「反語」。「いや!できる!できますともさ!」という意思を示しています。難民認定申請者は在留資格があれば、申請6ヶ月後に就労許可が下りれば日本で働くことができる(しかし、再申請時に突然就労不可にされてしまう事例がいま多発していますが・・・)。そうした難民を積極的に雇用しようとする企業がいま増えてきています。「仕事ができる」というのは、お金のためだけではなく、自分の尊厳や人間らしさを確認できる機会でもあり、日本社会との大切な接点にもなる。一方で就労不可の難民(少ない補助金がもらえるとはいえ)に対する心のケアはどうすれば・・・?問題は山積みですが、政府が動かないなら企業が!という日本企業の底力が見たい!


表紙の美しい女性は、元スーダン難民のスーパーモデル、アレック・ウエック。H&M FoundationのアンバサダーとUNHCRの親善大使を務めめています。アフリカ系モデルとして初めて「ELLE」の表紙を飾りました(1997年)。「モデル業はお金のためでも名声のためでもない。重要な問題に光を当てるため。私は運良く脱出できたが、いまだ多くの人が取り残され、それを世界に知らせる必要がある」彼女の言葉が力強く響きます。


難民問題に関わる記事のみ、以下にご紹介します。


「南スーダン難民、虐殺から逃れて」(2頁〜)

 ALTキーワード「愛の南京錠」「子どもたちの命をかけた旅」(4頁〜)

 「ソーシャルデザイン最前線 世界の難民を勇気付ける究極のデザイン」(11頁)

「難民・人権問題でビジネスは無力か」(12頁〜)

 コラム「難民受け入れの素地 日本社会にはある」(難民支援協会JAR)

 ドイツ「人道も多様性も重要 官民挙げて積極受容」

 米国「トランプ政権に対抗 難民雇用貫く企業」

 韓国「「難民法」、アジアに先駆け」

 伊藤和子(ヒューマンライツ・ナウ)「日本企業の人権問題、成長・リスクの分水嶺」(26頁〜)

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なんみんハウス資料室便り 17号

ベンジャミン・パウエル編(藪下史郎監訳、佐藤綾野・鈴木久実・中田勇人訳)『移民の経済学』東洋経済新報社、2016 

今回のなんみんハウス資料室便りは、先日までRAFIQ初のインターンとして活躍してくれていた、eijiが寄稿してくれました!ブレイディみかこさんの本で、現代は「もはや右対左(右派左派)ではない、下対上の時代だ」という指摘があり、つまり右か左かは敵(自分たちがうまくいかないのは誰のせいか、移民か金持ちか)という違いだけであって、右左は簡単に移動する。本質は上下(格差・貧富)なのだ。これが今の室長の世界を読み解くキーワードのひとつ!! というのを考えつつ、室長も読みたいです(って、アンタ、まだ読んでないんかーい!)

それでは、どうぞお読みください!                                                                                                                                                                                           

こんにちは!

今回の書籍紹介は、我らが資料室室長nonomarunさんに代わって、eiji@3ヶ月あった夏休みが早くも終わろうとしていてドン引きしている、というか夏休み3ヶ月もあってごめんなさい。です。(室長のスタイルを勝手に踏襲)

初めましてなので、ちょこっとだけ自己紹介します。僕は、 カリフォルニア州の小さな 大学に在学しており、この秋から二年生です。今年 6月からRAFIQで様々勉強させて頂きながら、お手伝いをさせて頂いておりました。面会や事務所当番、イベント等で様々な貴重な出会いをさせて頂き、ラッキーなことに、発足したばかりのGLORRYこと若手の会でも活動させてもらうなど、RAFIQでの様々な縁と経験に本当に感謝しています。

大変お世話になった室長から、この度の書籍紹介の任を拝しまして、拙い文章ですが、自分なりに紹介させて頂きます。

昨年、トランプ氏が米国大統領に当選するに至った背景の一つに、彼の移民に対する排外的な発言があります。グローバライゼーションが進み、大量の労働力が世界から米国内に流入する中で、トランプ氏は、米国の治安の悪化や、中間層や低技能労働者の雇用が移民によって脅かされるという不安を煽り、一部の国民から熱烈な指示を集めました。

その移民排斥論を、経済学を中心とした様々な社会科学の目でぶった切り、移民の功罪や政策の可能性を検証しているのが、今回紹介させて頂く本になります。

ベンジャミン・パウエル編(藪下史郎監訳、佐藤綾野・鈴木久実・中田勇人訳)『移民の経済学』東洋経済新報社、2016 

解説

第1章           イントロダクション

第2章           国際労働移動の経済効果

第3章           移民の財政への影響

第4章           アメリカ移民の市民的・文化的同化政策

第5章           雇用ビザ:国際比較

第6章           穏当な移民改革案

第7章           移民の将来:自由化と同化への道

第8章           国境の開放化に関する急進的な見解

第9章           結論:代わりとなる政策的視点

謝辞

参考文献

索引

著者紹介

監訳者・訳者紹介

タイトルからもお分かりの通り、この本は難民問題そのものには、ほとんど触れておらず、広義に人間の移動を捉える移民問題を取り扱っています。そもそも日本では移民というものの存在が制度として存在しません。では、なぜこの本が日本人にとって重要になりうるのかということですが、米国の移民排斥論と、日本の難民問題やヘイトスピーチの根っこにあるものが感情論によるものであり、十分な学問的考察に基づいていないという共通点を見出すことができることができると思われます。また、本書で論じられるのは米奥の経済や社会や政策ですが、現在日本で存在しない移民政策を、日本でどのように実現できるかを考えるのにも、非常に参考になると思います。

第2章から第5章は、移民が受け入れ国や、輩出国、そして世界全体にもたらす影響や、現行の政策などが言及され、残りの章では、不法移民への対応や国境開放化等に関して幾つかの異なる見解を持った社会科学者による政策案が論じられています。

特に前半の章では、経済学に関するある程度の知識がないと、(少なくとも、経済学の授業を取っていない僕には)あまりよく分からない箇所がありましたが、全体的には経済学を知らないからといって読めない本では決してないので、途中でポイしないでください。笑

さて、経済や社会秩序といった面で、どのような正と負の影響の可能性があるかは、本を読めばわかるので、読んでからのお楽しみということにしておきます。ただ、人権問題に聡い皆様が、頭の中に他者の人権の”じ”の字もない、つまり自分自身の利害しか頭の中にない人をギャフンと言わしめるに足る、学問的分析に基づいた論説を知ることができるのは間違いなしです!

しかし、仮にどれだけ人間のより自由な移動が便益に繋がったとしても、それだけを拠り所に移民を受け入れるのは危険だなと僕は思いました。資本主義経済には波があるのが法則であり、中長期的に移民による正の経済効果に浴することができたとしても、ひとたび景気が後退すれば、経済的利害にのみ振り回される人は、ここぞとばかりに移民排斥論を再び掲げ、移民排斥政策を推進していくことになるからです。

というのも、米国に限らず、世界各地で高まる移民排斥の動きは、全く新しいことではなく、20世紀初めから移民排斥政策は各地で実行されてきており、その動機はやはり雇用不安や、利権の保護に専心する人々の心によるものが多くありました。(20世紀初頭、米国で日本人の移民規制がされたり。今はメキシコですね。)

もちろん、自分の生活や命を守ろうとするのは自然なことですが、カネ、カネ、カネではなく、慈悲のある人権意識を一人一人の心の中に広げていくのが、やはり一番大切だなと思った次第です。国家の伝統的なあり方についても考え直させられたり。

さて、皆様はこの本を読んで何を思い、考えるでしょうか?移民排斥や白人至上主義運動などが、最近ニュースなどで取り上げられますが、そうした動きにも敏感に反応していきたいですね!

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なんみんハウス資料室便り 16号

小泉康一・川村千鶴子編著『多文化「共創」社会入門 ——移民・難民とともに暮らし、互いに学ぶ社会へ』慶應義塾大学出版会、2016年10月

み、みなさん、こ、こんにちは(おそるおそる)。なんみんハウス資料室長のnonomarun@15号っていつだったかしらって記録を遡ったら6月9日だったよ、みなさん私のこともうお忘れ(涙)? です。

資料室についにクーラーがつきます!たくさん書籍や資料も揃ってきたので、涼みに&勉強しにきてね!英語論文の寄贈もありました。

2ヶ月ぶりの本の紹介(ビクビク)は、「多文化共創」についてです。「共生(共に生きる)」ではなく「共に創る」。

「本書の目的は「対話的能動性」を相互に引き出しながら、移民や難民とともに生きる多文化社会の現実を知り、課題を発見し、問題解決の道を模索することにある。多文化共生からより広いネットワークをもつ能動的な実践力を発揮する「多文化共創社会」の実現を目指している。…日本政府は、これまで「移民」という言葉を避けてきたが、移民・難民はすでに私たちの眼の前にいる。ともに暮らしている友人でもある。…彼らは生活者であり、隣人であり、友人であり、時には身内でもある。」———まえがきより

そのために、具体的にどのような課題が目前にあるのか、これまでの経緯と現状を踏まえ、各章それぞれの論者が読者に問いかけ、各章に「ディスカッションタイム」として論点のポイントと視点の提示があります。ここからもわかるように、本書は特にこれからの若い世代に向けて、各研究者から期待を込めて発信されたもの。なぜなら「平成生まれの学生たちは、多文化・多言語にもまれて成長しており、多元価値社会に生きるアイデンティティの獲得に敏感である」から。

RAFIQでは「若手の会(仮称)」を2018年6月に立ち上げ、現在難民の方とともに、様々なイベントを行ってきました。nonomarun室長もその場に一緒にいて(注:私は若手ではありませんが、と毎回自己申告をし、そして難民の方々にも、いや君は若く見えるよ、とお気遣い票をいただくのがパターン化しています笑)、本書に書かれているような若い人たちの感性に触れる瞬間が多くあります。混迷していく日本社会・世界情勢のなかで、まず自分自身の将来や生き方、自己確立や自己実現をどうしていくかという希望と不安を持ちながら、どのように日本にいる難民と等身大で関わっていくのか、それは彼らの感性だけで乗り越えていけるものなのか、などなど、実はいろんなことを考えながら室長、楽しく関わっています。

会員向けイベントも開催予定なので、皆様もぜひ!と、最後は会の宣伝のようになってしまいました…が!                             

小泉康一・川村千鶴子編著『多文化「共創」社会入門 ——移民・難民とともに暮らし、互いに学ぶ社会へ』慶應義塾大学出版会、2016年10月

まえがき(川村千鶴子)

第1部               移民・難民理解へのアプローチ

第1章               学びの多様性と多文化共創能力 ——親密圏と多文化共創能力

第2章               多文化と医療 ——性と生殖を守るために

第3章               家族の変化を知る ——多文化な家族と地域社会

第4章               多文化共生の担い手を育てる ——群馬県大泉町での日本語教育の重要性

第2部               多文化共創まちづくりへの基礎知識

第5章               エスニック・コミュニティと行政の役割 –外国籍住民が「主体」になるために

第6章               企業が取り組む多文化共創 –CRSとダイバーシティ・マネジメント

第7章               日本の移民・難民政策

第8章               エスニシティの形成と創造 ——マジョリティ・マイノリティ関係の動態

第9章               外国人の市民権とは ——グローバル市民への視点

第3部               人の移動から世界を読み解く

第10章         現代世界の人の移動 –複合する危機と多様な人々

第11章         人はどう動いてきたのか –世界の変化と人の移動

第12章         世界は人々をどのように守ってきたのか ——ルール・組織と活動・恒久的解決

第13章         私はどこに属しているの? ——無国籍に対する国際的取り組み

第4部               21世紀をグローバルに考える

第14章         途上国では、いま何か起きているのか –ソマリアの事例から

第15章         難民流入に対するEUの移民・難民政策

第16章         国境を越える民、国歌を超える人権 –移民・難民の人権保護と国際人権法

第17章         難民の定住と心的トラウマの影響

第18章         移民・難民への見方を問い直す –“新しい人道主義”を超えて

あとがき

資料

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なんみんハウス資料室便り 15号

野田文隆・秋山剛編著、多文化間精神医学会監修『あなたにもできる外国人へのこころの支援 多文化共生時代のガイドブック』岩崎学術出版社、2016年9月

みなさん、こんばんは。なんみんハウス資料室室長のnonomarun@今夜の月は「ストロベリー・ムーン」なんですって!


「“strong mind”が大事なんだ」ー 不認定取り消しの裁判準備を迎える難民Bさんに、大先輩難民Aさんがアドバイス。ハウスのキッチンでお茶碗を洗っていた室長が、その言葉に思わず振り向くと、それまで下を向いていたBさんと目があいました。(そうだよ)という気持ちでにっこり笑いかけたら、Bさんも(そうだね)という顔でニッコリ。5秒ぐらいのことだけれど、室長はその時のことをずっと忘れないと思います。時々自分が「支援って何だろう、自分にできることってなんだろう?」って、迷った時に想い出したりして。

野田文隆・秋山剛編著、多文化間精神医学会監修『あなたにもできる外国人へのこころの支援 多文化共生時代のガイドブック』岩崎学術出版社、2016年9月

はじめに

パートⅠ 知ってほしい:外国人へのこころの支援のイロハ

パートⅡ 立場で違うこころの問題①

     1本人の場合 2配偶者の場合 3児童の場合 

パートⅢ 立場で違うこころの問題②

     1留学生では 2難民・難民申請者では 3外国人労働者では 4国際結婚では 5中国語精神科専門外来では

パートⅣ こころの支援者や団体を活用するコツ

     1国際交流協会と連携する 2スクールカウンセラーを利用する 3医療通訳を使う 

     4保健師に相談する 5精神保険福祉士に相談する 6心理士に相談する 7精神科医に相談する

パートⅤ 医療現場で実際に起こること

パートⅥ 文化的背景を知らないと困ること

付録 役に立つ相談先

おわりに

ここでは難民・難民認定申請者の場合をご紹介します。彼らの発症のストレス要因は、1)難民化以前に生じている問題 2)難民化中に生じている問題 3)難民化後(受入国)での問題、と大きく3つに分けられますが、ここでは3)の受入国での問題を以下に書き記してみます。

この場合、7つの要因が挙げられます、①移住に伴う社会的・経済的地位の低下 ②移住した国の言葉が話せないこと ③家族離散もしくは家族からの別離 ④受入国の友好的態度の欠如 ⑤同じ文化圏の人々に接触できないこと(補足:迫害や密告の恐れなどから)⑥移住に先立つ心傷体験もしくは持続したストレス ⑦老齢期と青春期世代

さらに難民認定申請者は、審査では(および裁判でも)トラウマ体験を何回も話さなければならない、いつ認められるか先がわからない、希望をもてない、他国に難民として行きたいが無理であるという状況も加わり、母国で受けたトラウマとホスト国での過酷な扱いによる二重の精神的負担を負いながら、ひたすら難民認定申請の判定を待っています。「自分で自分を励ましながら生活している」と本節でも表現していますが、まさにそれを目の当たりにします。ましてや「ホスト国」が難民鎖国の日本である場合、さらに入管管理局に長期収容されている場合などは、さらに精神状態は過酷になっていく。

もちろん臨床経験や専門的知識のない一般の私たちには、彼らの心に医療行為として接することはできないし、安易な言動は危険であるのかもしれません。ただ、本書の最後にある、Cultural Competence(多文化対応能力)を高めるというのは、きっと誰にでもできる。彼らには、民族的背景の差異、出身地・年齢・人生の経験など、人間的多様性が存在します。まずそれを理解するために、①文化的感受性を鋭くすること ②文化的な知識を得ること ③文化的共感性の強化 ④文化的に妥当な関係と相互作用を調整すること ⑤文化的に適切なテクニックを実行すること。すなわち「コミュニティにおいて、難民・難民認定申請者の語りを受け止める力こそが、Cultural Competence」なのです。

翻って私たち自身をみるに、私たちにも様々なルーツ、人生経験、人間的多様性が存在します。つまりその部分は世界共通。まず「人」として最初に繋がれたら・・・、毎日「自分で自分を励ましながら生活している」のは、あらゆる意味では私たちも同じなのかもしれないし、だから、「明日もまたがんばろう」っていう気持ちに、ゆるやかに寄り添いあえたらな・・と室長は日々、月を見ながら思うのです。皆さんはどう思いますか?

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なんみんハウス資料室便り 14号

多摩アフリカセンター、少年ケニアの友東京支部共編『アフリカに暮らして ——ガーナ、カメルーンの人と日常』春風社、2012年8月 

みなさん、こんにちは。なんみんハウス資料室室長nonomarun@です。

今回ご紹介する本は、アフリカの文化がわかる(ガーナ、カメルーン)一冊。日本人にとってはとても遠い大陸ということもあって、ボンヤリとしか知らない、あるいは知っていることがほとんど更新していかない場所の一つではないでしょうか。

そこで最近室長が知り合った、あるガーナ人との一コマをご紹介(以下、室長による意訳)。

いつもiPhoneのヘッドフォンをかっこよくつけて歩いているので…

の:それでいっつも何聴いてるのん?
が:ガーナのR&Bとか、ハイライフ
の:知ってる知ってる、ハイライフ!!
が:ええええ?なんで??すげーじゃん!
の:(の:→この本読んだからね!とは言わずに、ドヤ顔)
  私はハードロックとか。(聴かせてみる)
が:へえー(つまり、スルー)
の:ガーナと言えば、日本人にとってはチョコレートだけど、
  野口英世もだよね〜(この本で再確認した)
が:あー、なんかガーナで名前だけ聞いたことあるな。
  でも何やった人かは、あんまり知らないんだよねー
の:千円だして。
が:は?
の:ええから、はよ財布から千円札だせ!!
が:は???  わーーーーーーおーーーー、ひでお!!
の:千円札が私たちの国を繋げているのね(またもや、ドヤ顔)。
  ほら、はよ、友達に教えてあげ!!
が:やるやる!写メ送る!!

                                                       

ほらね、身近にたくさん!こうやって話が続いていって、友達になっていったらいいな。

前半の「ガーナより愛を込めて」では、ガーナ長期滞在の専門家達による、ガーナについての豆知識的なルポ。ガーナ大学農学部、太鼓、ハイライフ、フーフー(ガーナのごはん)、映画、FMラジオ、サッカー、奴隷貿易、野口記念医学研究所などなど、様々な角度からガーナの日常を知ることができます。

後半の「カメルーン民衆生活史」では、文化人類学者の和崎春日氏によるカメルーンでの長年の密着現地物語(ついには王に認められて、その王子にまでなってしまった!)。

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なんみんハウス資料室便り 13号

移住労働者と連帯する全国ネットワーク編『日英対訳 外国人をサポートするための生活マニュアル 役立つ情報とトラブル解決法 第2版』スリーエーネットワーク、2010年12月

みなさん、こんばんは。お休みはいかがお過ごしでしたか? なんみんハウス資料室室長nonomarun@オトナな深夜便 です。

今宵は、様々な人びとと寄り添うべくの、一冊を。RAFIQにはたくさんのヘルプ&相談が寄せられている毎日ですが、その際に参考にもしています。そして日本社会で暮らしながら、え?そうだったの??日本で暮らすってこんな大変なんだ!と教えてくれます。                  

移住労働者と連帯する全国ネットワーク編『日英対訳 外国人をサポートするための生活マニュアル 役立つ情報とトラブル解決法 第2版』スリーエーネットワーク、2010年12月

 第1章      入国と入管の手続き:1入国と在留資格 2更新・変更・再入国 3永住許可申請 4家族の呼び寄せ 5在留特別許可 6非正規滞在(オーバーステイ)後の帰国と再入国 7難民認定

 第2章      労働:1働き始めるとき 2賃金について 3労働時間と休日・休暇 4仕事が原因で病気やけがをしたら 5解雇・退職 6女性労働者の保護 7労働組合への加入・結成 8税金 9新たな技能実習制度

第3章      結婚・妊娠・出産・母子保健・離婚:1外国籍の方が日本で法的に結婚する場合 2妊娠 3出産 4母子保健 5離婚 6夫・恋人からの暴力(ドメスティック・バイオレンス)

 第4章      医療と福祉:1社会保険 2保険のない人の医療について 3生活保護制度 4子どもの福祉・児童手当 5ひとり親になったら 6難病患者の医療費助成

 第5章      子ども:1子どもの国籍 2子どもの教育 3在留資格のない子どもの支援

 第6章      その他:1運転免許 2交通事故 3事件に巻き込まれたら 4死亡に伴う手続き

外国人が日本に入国あるいは在住するにあたってのマニュアルです。特に難民に関するところは、第1章。でも、それ以外でも日本人だと当事者あるいは関係者になってから初めて調べて知る、ということが多いので、読むだけでもとても勉強になります。事務的な手続きだけでなく、現状はこんな例もあった、役所にはこういう言い方をした方がよい、こういうことを入管や警察に言われることが多いが審査には則していないので全く気にする必要はない、など、外国人が感じる不安を払拭し寄り添うべく、細かいアドバイスが。日英対訳です。

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なんみんハウス資料室便り 12号

ジグムント・バウマン(伊藤茂訳)『自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える』青土社、2017年2月

みなさん、こんにちは。
なんみんハウス資料室室長nonomarun@なんと!前号は4月1日発行であった!という驚愕の事実が発覚!! です。4月もあっという間・・・きっと5月もあっという間・・・。いやいや、毎日が充実すぎたってことで!忘れられないように、発信がんばりまする!乞うご期待(と、つい自分を追い込んでしまったけど、私はそれができるヒト…たぶん(m_m))

先日、シネ・リーブル梅田で、映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観てきました。イギリスの貧困や格差社会については、ブレイディみかこさんの著作などで知っていたけど、こうして目の当たりにすると絶句。そしてダニエルが書き記した言葉が、そのまま日本にいる難民に当てはまり、気持ちがぐーーーっときて哀しくなってしまいました。ちょうど難民不認定取り消し裁判の傍聴の帰りだったので、さらに・・・(T_T)ダニエルがしたことを、私も同じ状況にいたら、他の人にできるのだろうか?と自問しながらの帰り道、空を見上げると星がとても綺麗でした。

                                    ジグムント・バウマン(伊藤茂訳)『自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える』青土社、2017年2月

第1章          移民パニックとその利用(悪用)

第2章          避難所を求めて浮遊する難民たち

第3章          強い男(女)が指し示す道について

第4章          過密状態をともに生きるための方策

第5章          面倒で、イライラさせて、不必要な、入場資格を持たない人々

第6章          憎悪の人類学的ルーツVS時間拘束的ルーツ

訳者あとがき ——解説も含めて

人名索引

著者はポーランドのユダヤ人家庭に生まれ、冷戦時代にワルシャワ大学の職を追われイギリスに移住した経歴の持ち主(イギリスのリーズ大学名誉教授)。本書の移民・難民のテーマについては、こうした彼の個人的経験が大きく関連していると思われます。

薄い本で読みやすいのですが、少し議論が込み入る部分もあり、訳者あとがき(解説)に、各章の内容とポイントがわかりやすくまとめてあるので、まずこの部分を先に読むことをおすすめします。ここでもそれに沿って、nonomarun室長が、特に日本社会と強く関わると思った第1章と第2章をご紹介します。

第1章では、日本でも衝撃が走った浜辺に打ち上げられた難民の遺体の映像にように、連日彼らの悲劇がマスコミによって流されて世間は同情のパニック状態になるも、それは一時的でやがて沈静化して見慣れた日常のひとこまとなり「無関心化」へと向かうメカニズムと、そこから世界的規模の根本的解決策を練られないままになっていく「道徳的中立化」についての警鐘。また悲惨な状況下にある難民の姿が、国内の不遇な人々にとって「下には下がいる」という安心感や不満の解消、自尊心の回復にも繋がること、しかしその姿は「悪い知らせをもたらす使者」として非難や排斥・処罰対象にされてしまうという奇妙な社会心理学的な機制に触れています。この部分は、震災や福島原発問題と繋がり、考えさせられました。

第2章も、日本社会にも大いに関係する、最近政治家やメディアが頻用する「安全保障化」。難民の悲惨な実態や難民問題を引き起こしているグローバルな要因からは目をそらせ、難民に混じった一握りのテロリスト(主に中東出身者)への対策と国内の治安・安全対策へと問題を収束・矮小化させる動き。こうした強行策を主張する政治指導者の支持率は高まり、また難民の悲劇に関心を寄せない一般市民の道徳的後ろめたさも和らぎ解消される効果があるがゆえに、この言葉はいっそう多用されていく。

6月20日の「世界難民の日」にあわせて、RAFIQでも主催イベント(2018年7月2日)を企画していますが、今年のテーマは「日本で何ができる?世界が揺れる難民問題」。世界がこんな揺れているときだからこそ、難民の状況をみることで世界の様々な根源的な問題が見えてくるのでは?難民問題を通じて様々な問題を顕在化しよう、意識しよう、行動しよう!という気持ちが込められています。本書でも難民・移民に光を当てることによって、政治家のみならず一般の人々の心理的メカニズムや社会要因が鮮明になっています。難民・移民問題だけでなく2050年には世界人口は100億を超すと言われているこの世界で、私たちはどのような共生社会(あるいは共生しない社会)を目指すのでしょうか?

カテゴリー: 書籍

なんみんハウス資料室便り 11号

長坂道子『難民と生きる』新日本出版社、2017年3月

こんばんは。なんみんハウス資料室室長nonomarunの星座はオリオン座@今日はエイプリルフールだけど本気だよ。 です。


先日、梅田シネ・リーブルでフランス映画『未来よ、こんにちは』を観てきました。主人公の女性の凜とした生き方と心意気に共感するとともに、運命や現実を受け入れて、負った傷も含めて自分に正直にしなやかに生きていくのが、本当の強さかもな、と思った室長です。さて、この主人公は哲学の高校教師なのですが、とにかくどこにもかしこにも本があって、どこでも読んでいるし回りも読んでいるし、もうそういう場面にめっぽう弱い室長(すぐ読書熱が出る)、、、て話は置いといて。この映画の舞台であるフランスだけでなく、多くのヨーロッパ諸国では哲学を高校の必修科目にしていることは有名ですが、もうその授業風景が!モンテーニュやルソーの精神とか理論を高校生が真剣に討論している(そしてその生徒達は多民族)。…という教育の素地があってこその、今回ご紹介する「市民教育」なのかな、と思った次第。

長坂道子『難民と生きる』新日本出版社、2017年3月

欧州に長く居住する彼女が、久しぶりに日本に帰国し、「!?」と思ったこと。例えば、大荷物をもっている老婦人を助けようと、あるいはベビーカーと四苦八苦している若いお母さんを助けようと声をかけたら、慌てて断られてしまったこと。周りの通行人は全く彼女らを無視して通り過ぎていく。困っている人に手を貸すことも、また貸されることにも不慣れな日本社会。

日本社会は、家族・地域コミュニティなど自分が所属する身近なところでは人に優しく親切ですが、赤の他人には驚くほど不親切で冷淡だと、室長も海外から帰るたびに思います(赤の他人でも、それが消費者となれば親切かも)。貧乏な人を税金を使ってまで助ける必要はない、社会的弱者は自己責任。だからこそ、子どもの時から社会の「勝ち組」になるように育て上げる(何が「勝ち組」なのかもわからないまま)。

では難民が百万単位で押し寄せている欧州はどうなのか?確かに難民排斥の政策も執られつつあるけれど、筆者の感覚では、各国間にかなりの差があるにしても、一般の人々の意識の中ではこの「難民問題」は日常的なイシュー(課題)として定着しているそうです。その典型的な姿が、自宅に無償で難民を泊め、一緒に生活する人々。混雑した場でベビーカーを押す女性を「迷惑」と捉える社会と、見も知らぬ難民を自宅に迎え入れることも厭わない社会。「他者への態度」における彼我のこの違いはどこから来るのだろう?というのが、著者の最初の疑問でした。

そこから「難民と生きる」一般のドイツ人たちと、難民をインタビューし、生の声を収録したのが本書です。彼らと共に暮らし、難民認定申請を手伝ったりドイツ語を教えたり、喧嘩したり一緒に笑ったりして自立支援をしているうちに、「難民」が「マフメド」「ウルスラ」という個人の顔に、友人の顔に変わっていく。しかも彼らには、路上に寝ている難民を泊めてあげた、という単純で当然のことをしたという意識と「無理をしていない」という態度。例えば、難民と猫を留守番に残して、バカンスに何週間も行ってしまう(笑)。そして支援という一方通行ではなく、自らも一緒に成長していることを実感し、お互いがこの出会いに感謝して、それぞれの人生を歩んでいく社会。

こうした事例を通じて、著者は最初の疑問に対する答えの一つとして、「市民教育」を挙げます。市民教育とは愛国教育ではなく、「自分が社会の構成員であり、人権を享受する権利とともに、他者のものも含めてそれを擁護する義務を負うものであることを理解させるような教育。民主主義の良い点と脆弱な点を学ばせ、過去の悲劇を再び繰り返さないためにはいかに市民一人一人の意識が必要であるかを考えさえる教育。国と国の境が何度も書き換えられたヨーロッパという土地で、なんとか平和を維持していくための協調や妥協や交渉や工夫、その具現としてのEUの理念や歴史的背景と同時に、その矛盾や問題点をも学ばせ、議論させる教育」(207—208頁)。2016年末のベルリン・クリスマス・マーケットでのトラックテロ事件のあとも、人々はそこに行き続けたし、当局も禁止や制限もせず難民排除の空気が一気に膨らまなかったことに、ドイツ市民の意地と希望をみたと著者はいいます。そして「難民を支援すること」と「(自分の)日々の享楽という自由社会の宝への愛着を持ち続け、それを死守しようとし続けること。それは共に自由で寛容な世界への希求の表れであり、地続きの一貫した態度」なのだと。