カテゴリー: 書籍

なんみんハウス資料室便り 19号

今泉みね子『ようこそ、難民! 100万人の難民がやってきたドイツで起こったこと』合同出版、2018年2月 

みなさん、こんにちは。
なんみんハウス資料室室長nonomarun@前回18号の配信が9月8日だから、5ヶ月ぶりだねっ!って…(>_<)スイマセン…。


本屋があれば、とりあえず入って本の匂いを嗅ぐ、というのが室長の素敵な習慣ですが(自分で言う)、平積みで目に飛び込んできた最新刊…なぜならタイトルが『ようこそ、難民!』。

市民啓発系イベントで、コラボ企画をする場合、先方から「“ようこそ、難民!”というのをバーン!!って表に出したいんですっっ!」と提案されることがあります。もちろん、RAFIQでもこのキャッチフレーズを使ってきました。しかし最近は、「あ〜、そうなんですね〜。確かに日本に来てしまった人に対してはこう言いたいし、そういう支援をしてるんですけど、もう外に向かっては…」と説明することが多いのです。そして打ち合わせの雰囲気は、徐々に暗くなっていく…。

もちろん世界各国の社会事情や超えてきた歴史が違うのは当然で、単純に難民受入数だけで、その善し悪しを比較し断ずることはできません。しかし、日本中が一喜一憂しているこのオリンピックの最中に発表された法務省発表の速報値では、2017年の難民認定申請者は2万人弱、そのうち認定はたったの20人でした。メダル獲得数が大騒ぎされる側で、ほとんど0%の難民認定率をキープしつづける日本。さらに去年末から始まった難民認定審査基準の改悪により、生きるための就労もできず、最終的には入管に収容される難民が増大する事態になりつつあり、最近は、そもそも難民認定申請をすることすら拒否される事例が増えています。

難民を庇護する義務を負う「難民条約」を批准しているにも関わらず、こんなにも難民に対して、人権を無視した冷たく酷い仕打ちを続ける国だから、もはや世界に向けて「ようこそ、難民!」とは言えず、むしろ「こんな日本に来たら、だめ!」と周知してもらうのが、いま一番の難民支援なのではないか…?というのが、支援者の共通認識になりつつある現状のなかで、皆さんはこの本を読んでどう思われるでしょうか。けれども、この本の中では、普通の生活をおくりながら登場人物達が、家族と、友達と、先生と、社会と真剣に難民受け入れについて、いろんな立場から本気で考え討論している。日本政府を弾劾する前に、そもそも私たち日本社会に、私たち個人に、他者に目を向ける意識からして欠落しているのではないか、と思ったりもします。

今泉みね子『ようこそ、難民! 100万人の難民がやってきたドイツで起こったこと』合同出版、2018年2月 

難民がドイツにたどり着くまで(※避難ルートの地図)

1      マックス、タミムと知り合う

2      ことばを見つけ、交換する

3      なぜドイツは難民をたくさん受け入れるの

4      高まる反対の声

5      アフガニスタン人の家族

6      イースターの大討論会

7      1945年のドイツ

8      難民はテロリスト?

9      習慣のちがいがトラブルをよぶ

10   ドイツ人になる

11   知り合い混じり合ってくらす

あとがきと解説

ある日マックスは、公園でドイツ語を話せないシリア人のタリムと出会います。その後タリムや他の難民が次々とマックスの学校へ転入してくることで、クラスで難民と仲良くなる子、いつまでも苛める子を通して、マックスの日常に様々な波紋が生まれていきます。子どもたちも、直に難民の子達と接することで、テレビでみたニュースが身近に感じられ、先生や家族に次々と素朴な疑問をぶつけていく。マックスの家族も、それぞれ難民受け入れに対しての意見が違い、マックスは家族から改めてたくさんのことを学び考えます。

第二次世界大戦後にドイツ難民だった母方のおじいちゃん、難民受け入れに難色を示す人口の少ない田舎に住む父方の祖父母、文化の違いなどとぶつかりながら難民支援を始めたお母さん。そのほか、妻がドイツ語を習得しドイツ女性の価値観を身につけ始めて、ぎくしゃくし始めるムスリム家族、認定を受けた人の喜び、受けられなかった人の絶望、テロ事件や難民との多発する諍いにより、難民排除に傾いていくドイツ社会や、難民保護施設に放火するなど実力行使にでていくドイツ人、それでも人として繋がり共に社会で暮らすために努力する人びともいる。

本書は実際の事件や取材から描かれた物語だから、登場人物の声は、読む私たちに「で、あなたは、どう思うの?」と、直接問いかけてきます。