カテゴリー: 書籍

なんみんハウス資料室便り 15号

野田文隆・秋山剛編著、多文化間精神医学会監修『あなたにもできる外国人へのこころの支援 多文化共生時代のガイドブック』岩崎学術出版社、2016年9月

みなさん、こんばんは。なんみんハウス資料室室長のnonomarun@今夜の月は「ストロベリー・ムーン」なんですって!


「“strong mind”が大事なんだ」ー 不認定取り消しの裁判準備を迎える難民Bさんに、大先輩難民Aさんがアドバイス。ハウスのキッチンでお茶碗を洗っていた室長が、その言葉に思わず振り向くと、それまで下を向いていたBさんと目があいました。(そうだよ)という気持ちでにっこり笑いかけたら、Bさんも(そうだね)という顔でニッコリ。5秒ぐらいのことだけれど、室長はその時のことをずっと忘れないと思います。時々自分が「支援って何だろう、自分にできることってなんだろう?」って、迷った時に想い出したりして。

野田文隆・秋山剛編著、多文化間精神医学会監修『あなたにもできる外国人へのこころの支援 多文化共生時代のガイドブック』岩崎学術出版社、2016年9月

はじめに

パートⅠ 知ってほしい:外国人へのこころの支援のイロハ

パートⅡ 立場で違うこころの問題①

     1本人の場合 2配偶者の場合 3児童の場合 

パートⅢ 立場で違うこころの問題②

     1留学生では 2難民・難民申請者では 3外国人労働者では 4国際結婚では 5中国語精神科専門外来では

パートⅣ こころの支援者や団体を活用するコツ

     1国際交流協会と連携する 2スクールカウンセラーを利用する 3医療通訳を使う 

     4保健師に相談する 5精神保険福祉士に相談する 6心理士に相談する 7精神科医に相談する

パートⅤ 医療現場で実際に起こること

パートⅥ 文化的背景を知らないと困ること

付録 役に立つ相談先

おわりに

ここでは難民・難民認定申請者の場合をご紹介します。彼らの発症のストレス要因は、1)難民化以前に生じている問題 2)難民化中に生じている問題 3)難民化後(受入国)での問題、と大きく3つに分けられますが、ここでは3)の受入国での問題を以下に書き記してみます。

この場合、7つの要因が挙げられます、①移住に伴う社会的・経済的地位の低下 ②移住した国の言葉が話せないこと ③家族離散もしくは家族からの別離 ④受入国の友好的態度の欠如 ⑤同じ文化圏の人々に接触できないこと(補足:迫害や密告の恐れなどから)⑥移住に先立つ心傷体験もしくは持続したストレス ⑦老齢期と青春期世代

さらに難民認定申請者は、審査では(および裁判でも)トラウマ体験を何回も話さなければならない、いつ認められるか先がわからない、希望をもてない、他国に難民として行きたいが無理であるという状況も加わり、母国で受けたトラウマとホスト国での過酷な扱いによる二重の精神的負担を負いながら、ひたすら難民認定申請の判定を待っています。「自分で自分を励ましながら生活している」と本節でも表現していますが、まさにそれを目の当たりにします。ましてや「ホスト国」が難民鎖国の日本である場合、さらに入管管理局に長期収容されている場合などは、さらに精神状態は過酷になっていく。

もちろん臨床経験や専門的知識のない一般の私たちには、彼らの心に医療行為として接することはできないし、安易な言動は危険であるのかもしれません。ただ、本書の最後にある、Cultural Competence(多文化対応能力)を高めるというのは、きっと誰にでもできる。彼らには、民族的背景の差異、出身地・年齢・人生の経験など、人間的多様性が存在します。まずそれを理解するために、①文化的感受性を鋭くすること ②文化的な知識を得ること ③文化的共感性の強化 ④文化的に妥当な関係と相互作用を調整すること ⑤文化的に適切なテクニックを実行すること。すなわち「コミュニティにおいて、難民・難民認定申請者の語りを受け止める力こそが、Cultural Competence」なのです。

翻って私たち自身をみるに、私たちにも様々なルーツ、人生経験、人間的多様性が存在します。つまりその部分は世界共通。まず「人」として最初に繋がれたら・・・、毎日「自分で自分を励ましながら生活している」のは、あらゆる意味では私たちも同じなのかもしれないし、だから、「明日もまたがんばろう」っていう気持ちに、ゆるやかに寄り添いあえたらな・・と室長は日々、月を見ながら思うのです。皆さんはどう思いますか?