ミャンマー難民、遠い安住 日本になじめず「仕事なく生活費心配」 定住第1陣の夫婦

(11/9/29 朝日新聞)

第三国定住制度で昨秋タイから来日したミャンマー(ビルマ)難民の第1陣5家族のうちひと組の夫婦が28日、都内で会見した。夫婦は3人の子どもと千葉県で暮らすが、日本になじめず、就職先は決まっていない。支援する弁護士は「受け入れ態勢を抜本的に見直すべきだ」と、外務省に申し入れている。

●就労ニーズ合わず

会見で夫(46)は「仕事はないので、家賃、食べ物、子どもの学費が心配」と語った。会見には通訳が同席。妻(48)は「一番大変なのは日本語がわからないこと」。ともにキャンプ生活は約15年。夫は日本は戦争もなく自由な生活ができると思ったといい、「帰りたいと考えたこともあったが、もう来たんだから、住み続けたい」と話した。
5家族は少数民族カレン族で、外務省の外郭団体・アジア福祉教育財団の難民事業本部(RHQ)が行う日本語などの研修を半年受けた。今春から千葉、三重両県内の農業法人で半年の職場適応訓練が開始。訓練中はRHQが1人約12万円の援助費を支給。訓練を終え双方が合意すれば、受け入れ先で働く予定だった。
だが、夫は訓練期間が終わったが農業法人での就職を希望せず、間もなく訓練を終える妻と、同じ法人で訓練していたもうひと組の夫婦も就職しない意向だ。支援者らが改めて就職先を探している。
2家族の代理人の渡辺彰悟弁護士らによると、事前にRHQから聞いた条件と異なり、作業が早朝や夜に及んだり、土曜日に休めなかったりした。往復約2時間の子どもの保育園の送迎などが負担だという。渡辺弁護士らは「実態は労働で、対価や説明が不十分。支援体制の拡充が必要」と、26日に外務省に申し入れた。
農業法人は「季節や作業によって朝早いのは当然。日本の生活環境や働き方についてきちんと説明され、理解しているのだろうか」と戸惑う。
外務省は「第1陣の方々が様々な困難に直面していることは承知している。改善できる点は改善していきたい」とする。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)前駐日代表で東洋英和女学院大教授の滝沢三郎さんは「政府が受け入れ先や地元自治体、NGOに、難民になった背景などを十分伝え、協力して支援しないと同じ問題は続く。わずかな研修で自立が難しいことは、かつてインドシナ難民受け入れの際にも言われていたことで見直しが必要だ」と話す。

●増えぬ希望者、辞退も

タイ北西部のメラ難民キャンプからは第2陣の4家族18人が29日に日本に到着する。当初6家族26人の予定だったが、1家族が辞退した。主な理由は幼い子を抱え、日本での生活に不安があったことだ。第1陣の家族から「共働きをしながらの育児で疲弊している」と伝わった。さらに1家族5人は遅れて来日する見込み。来日は2年で50人となるが、年約30人の当初計画を下回る。
2004年以降、タイからの第三国定住制度で、米国は約7万1千人、豪州やカナダ、北欧諸国などは1千~8千人を受け入れている。
同キャンプのトゥントゥン委員長は「同じアジアの仏教国である日本に行きたいという人は本当は少なくない。制度は失敗だと判断せず、むしろ枠を広げていって欲しい」と話した。
(中川竜児、バンコク=古田大輔)

【写真説明】
会見する第三国定住第1陣のミャンマー人夫婦=28日夜、東京都新宿区、西畑志朗撮影