ナイジェリア 人道危機を食い止めねば

(17/6/5 信濃毎日新聞 社説)

西アフリカのナイジェリアで深刻な人道危機が起きている。

特に北東部ではイスラム過激派ボコ・ハラムの襲撃が相次ぎ、多くの人が飢えに苦しんでいる。国際社会は人道支援に本腰を入れねばならない。

ボコ・ハラムは2002年に北東部ポルノ州で設立された。欧米の教育や価値観を否定し、シャリア(イスラム法)の導入を求めてきた。当初は穏健な組織だったが、政府軍による過剰な武力行使によって追い詰められ、過激さを増しているとされる。

襲撃した村で少女らを誘拐し、戦闘員と強制結婚させたり、自爆テロを強要したりしている。

爆弾が起爆せずに助かった少女らは、当局の取り調べに対し「洗脳された」と語っている。卑劣な手口は目に余る。

14年にはポルノ州の学校で女子生徒276人を拉致し、国際的な問題になった。ナイジェリア政府は先月、拘束していた戦闘員の釈放と引き換えに82人の生徒を解放できたものの、今も100人以上が行方不明のままだ。

これだけではない。ボコ・ハラムは襲った村から収穫した作物や食料を奪っている。住民は処刑を恐れ、我慢するしかない。栄養失調になる人が相次ぎ、難民となって欧州を目指す人も多い。

国連は内戦が続く南スーダンなどとともに「国連創設以来、最大の人道危機」と訴えているが、国際社会の反応は鈍い。約4800億円の緊急支援を求めたのに、4月中旬の段階で集まったのは2割程度にすぎない。

先日、イタリア南部のシチリア島で先進7カ国首脳会議が開かれた。難民が押し寄せる「玄関口」となっており、地中海で命を落とす人が絶えない。その惨状を世界に伝えるため、イタリア政府はこの地を選んだのだ。

首脳宣言には迅速な人道支援を行うことを盛り込んではいる。会議では難民に冷淡なトランプ米政権によって脇に追いやられ、主要議題にはならなかった。難民よりもテロ問題を集中的に議論するよう要求したとされる。

貧困や飢餓など、社会への絶望がテロの要因となっている現実をどう考えているのか。米国の姿勢には幻滅させられた。

日本は飢餓に苦しむ国々に約30億円の緊急無償資金協力を実施することを決めたが、対応は不十分だ。人道危機をこれ以上悪化させぬよう、世界の旗振り役を務めるべきだ。ナイジェリア支援でも議論をリードしたい。

(6月5日)