(15/2/12 東京新聞)
2015年2月12日
【写真】出入国管理機関の一つである東京入国管理局=東京都港区で
「国際慣習法反する」
昨年12月18日、法務省入国管理局(入管)が、不法滞在のスリランカ人26人を民間チャーター機で強制送還した。送還された中には、難民認定をめぐる裁判を希望していた人が複数いた。裁判を受ける権利の侵害ではなかったのか。 (篠ケ瀬祐司)
スリランカに強制送還された三十代の男性は「こちら特報部」との電話で、今回の経緯をこう語った。
「十二月十七日に入管職員から『難民申請はだめだった。裁判はできる』と言われた。ならば裁判をしたいと伝えたが、その日の夕方に車に乗せられ、十八日に飛行機でスリランカに送られた。携帯電話を職員に持って行かれてしまったため、送還前に弁護士と連絡が取れなかった」
男性の支援者や弁護士によると、男性は約十年前に日本に入国。難民認定手続きが認められず、異議申し立ての結果待ちだった。異議申し立てが認められない場合は、六カ月以内に難民不認定処分の取り消し訴訟を起こすことができる。
弁護士は「男性との事前の相談で、異議申し立てが認められない時は訴訟をすることにしていた。訴状もすぐ出せる状態だったが、男性と連絡が取れないまま送還された」と戸惑う。
昨年十二月に強制送還されたスリランカ人の中には、この男性以外にも裁判を希望していた人がいる。
外国人労働者問題に取り組む医師の山村淳平氏は一月にスリランカを訪問し、別の男性四人と女性一人から話を聞いた。
五人とも送還前日の十七日、入管職員から、難民申請の異議申し立てが認められないことや、裁判が可能なことを伝えられた。裁判を希望したものの、すぐに別の職員からスリランカへの送還を告げられた。やはり弁護士らとは連絡が取れず、十八日に飛行機に乗せられた。
入管の対応は適切だったのか。入管警備課は「送還した段階では、難民申請の手続きをとっている人はいなかった」と説明する。異議申し立てを認めないことを告知した時点で手続きは終わっており、送還時には訴訟も起こされていなかったから問題ないというのだ。
送還前に弁護士らと連絡が取れなかった点についても「送還を告げれば護送が始まる。逃走や身柄の奪取を回避するため、護送中は外部と連絡をさせないのが原則だ」と主張する。
だが、入管の性急ともいえる対応では、難民不認定取り消し訴訟を起こしたくても起こせなかった。難民かどうかの判断が裁判などで確定する前には、送還・追放を行わないのが国際慣習法の原則だ。
山村氏は「難民認定をめぐる裁判を希望していた人の送還は、国際慣習法の原則に反する。時間をかけて帰国を説得した形跡もない。裁判を受ける権利が奪われている。国家運営上、出入国管理は必要でも、入管の対応に誤りがあれば正すべきだ」と指摘する。
外国人労働者問題に詳しい指宿昭一弁護士も入管の対応を疑問視する。
「六カ月の提訴期間を設けているのは、弁護士と相談し、訴訟を起こすかどうかを決める権利があるからだ。弁護士と連絡も取らせず、すぐに送還したのは問題だ。母国での投獄、処刑の可能性もある」