難民認定、対象拡大の方針 「新形態の迫害」追加 法務省

(15/9/5 朝日新聞)

2015年9月5日05時00分

図:難民認定申請と認定数などの推移

外国人の申請が急増している難民の認定制度について、法務省は保護の対象に「新しい形態の迫害」を加え、認定の枠を広げる方針を固めた。また、認定判断の基準づくりに外部の意見を採り入れる。政府の出入国行政のあり方を定める「出入国管理基本計画」に盛り込み、近く公表する。
一方で、6月に公表した当初案通り、問題とされる申請の抑制に向け、難民審査の厳格化をはかる仕組みも盛り込む。日本の難民認定が極めて少ないうえ、この仕組みは本当に保護を必要とする難民申請者を「偽装滞在者」とみなす恐れがあるなどと国際機関に批判された。新たな仕組みが難民受け入れ拡大につながるかが問われることになる。

現在の難民認定は、難民条約が定める「人種や宗教、政治的な理由などで迫害される恐れ」に当たるかで判断している。だが、近年はアフリカで虐待を受けている女性など、従来にはない理由で難民となる人が増えている。そこで新たな方針では、保護の対象に「新しい形態の迫害」も加えると明記した。

また、認定判断の基準づくりのために、弁護士や海外勤務の経験者、国際問題の研究者ら外部の有識者による「難民審査参与員」の意見を採り入れる。これまで参与員は不認定に対する異議申し立てに限って対応してきた。

一方、「借金から逃れるため」などと明らかに難民とは言えない申請も多いという。申請中は強制送還されない制度を悪用し、就労や定住目的で申請を繰り返す人もいるとされる。

今後は前回と同じ理由での再申請者には就労を許可しないほか、明らかに該当しない理由で申請を繰り返す人には在留許可も認めないなど、当初案通りの厳格化も盛り込む。ただし、この際も、外部の専門家が事後に適正かどうかを確認する仕組みを設けるという。

日本での申請者は年々増加し、昨年は5千人。ただし認定は11人で、人道的な配慮での在留許可も110人にとどまった。

■<視点>受け入れ増加へ、運用が鍵

国際的に厳格さが際立つ日本の難民行政は果たして変わるのか。

6月に法務省が公表した見直し原案は、乱用的な申請への抑制策が目立った。これに対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や日本弁護士連合会が懸念を表明。指摘を受けて法務省は新たな仕組みを盛り込んだ形だ。これを形骸化させてはならず、実際にどう運用するかが鍵となる。

現段階では、どのような人を保護の対象とするかは具体的とは言えない。例えば、シリアなど紛争を理由とした難民はどう保護していくのか。認定がどの程度増えるのかは不透明だ。
欧州各国は押し寄せる難民の対応に頭を悩ませている。この現状は決して対岸の火事ではない。

これまでの厳しい認定から、「本当に保護が必要な人は必ず救う」という姿勢に転換できるかが問われている。国際貢献の視点に立てば、受け入れの一層の拡大に向けた検討が急務だ。

(金子元希)

◆キーワード

<難民> 難民条約は「人種や宗教、国籍、政治的な意見などを理由に、迫害を受ける恐れがあるとして国外に逃れた人」と定義している。条約では紛争地からの避難者は含まれないが、各国の判断で難民と同様に人道的な保護を受けている。

日本では、申請を受けて法相が難民に当たるかどうかを決定する。条約を厳格に解釈しており、昨年の認定率は1%に満たない。難民と認定されると、国民年金や児童扶養手当など、日本国民と同じ待遇を受けられる。