(13/6/27 毎日新聞)
2013年06月27日 00時20分
難民の人権保障と問題解決に向けた国際協力のために締結された難民条約に日本が加入したのは1981年。それから30年以上たつのに受け入れは進まず、祖国で迫害を受けた人たちが日本で再び苦しい生活を強いられている。難民保護は国際社会との重い約束であり、「鎖国」のような現状を続けることは許されない。出入国管理の枠組みから切り離した「難民保護法」を早期に制定し、世界に胸を張れる制度を整えるべきだ。
◇昨年の申請2545人、認定は18人のみ
法務省によると、日本では昨年、過去最多の2545人が難民申請したが、認定されたのは1次審査で5人、異議申し立てで13人の計18人しかいない。2011年の1次審査の認定率は、オーストラリア41.9%▽英国25.1%▽ドイツ20.7%▽韓国11.7%。日本の0.3%は極端に低い。
最大の理由は「出入国管理」と「難民認定手続き」を一括して取り扱う制度にある。どちらも出入国管理及び難民認定法という一つの法律に従って運用され、法務省入国管理局が担当。難民保護は出入国管理の延長として位置づけられ、公正な審査に必要な独立性や権利保障に欠ける。
申請者は切迫した状況で祖国を逃れ、迫害を受けた証拠を持っていない場合が多い。言葉の壁もあり、精神状態も不安定だ。それなのに日本の審査は基準が厳しく、申請者に重い立証責任を課す。証拠の欠如やささいな食い違いを理由に、主張を全て否定する傾向がある。
こうした現状を踏まえ、国内の主要難民支援団体でつくる「なんみんフォーラム」は今月20日の「世界難民の日」に合わせ、出入国管理と分離した難民保護法の新設を求める政策提言を公表した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国際基準などに基づき、法的地位の保障や生活支援の充実を盛り込んだ。
政府は、この提言を重く受け止めるべきだ。申請者が公正な審査を受けるには法的支援や透明な審査が欠かせない。UNHCRが示す「疑わしさは申請者の利益に」の原則を徹底する必要がある。母語による証拠提出を認め、弁護士や専門家の助言を受ける権利も保障すべきだろう。
◇審査手続き数年、生活保障充実を
難民認定を待つ人々の生活保障の充実も大きな課題だ。審査手続きは裁判を含めると数年かかるが、生活費を稼ごうにも、オーバーステイの場合は就労資格は得られない。就労できる人も日本語学習や職業訓練の機会は乏しく、職探しは容易でない。困窮者に保護費を支給する公的制度はあるが、生活支援が大人日額1500円、住居支援が月額4万円と生活保護より少ない。審査も厳しく昨年度の受給者は552人にとどまる。
「食べるものがない」「夫が収容された」。NPO法人・難民支援協会(東京都)には連日約70件の相談がある。昨冬はホームレス化した申請者の支援に追われた。行き場のない人たちは一晩中、当てもなく街を歩き、コンビニに立ち寄って寒さをしのいでいた。公園で野宿する人さえいた。「死者が出なくて幸いだった」とスタッフは言う。
韓国では7月1日に「難民法」が施行される。難民条約加入は日本の11年後。日本に倣って出入国管理法の中に難民認定手続きを位置づけていた当初は、やはり受け入れが進まなかった。00年代に民間団体から法整備を求める声が高まり、昨年末に▽強制送還の禁止▽弁護士や通訳を付ける権利▽申請者に有利な資料収集の義務づけ――を規定した難民法が成立した。近年、外国人との共生を目指して地方参政権を認め、差別防止や定住支援も法制化している。
難民支援協会の田中志穂さん(36)は「いつの間にか韓国に追い越された。受け入れが進まないのは、私たちの社会に難民への理解、定住外国人の受け皿が欠けているからでもある」と指摘する。
難民受け入れは社会に「多様性」をもたらす。「グローバルな人材」がもてはやされるが、真の国際理解は子供の頃から多様な文化、価値観に触れてこそ養われるはずだ。難民を含む定住外国人が肩身の狭い思いをする社会で、そんな人材が育つだろうか。
在日コリアンへのヘイトスピーチ(憎悪発言)、従軍慰安婦を巡る橋下徹・大阪市長の発言と、国際社会から日本の人権感覚を疑われる出来事が相次ぐ。難民制度見直しを第一歩に、多様なルーツを持つ人が暮らしやすい社会づくりを進めたい。難民申請者の苦境は、日本社会の閉鎖性や欠陥を映す鏡だ。