(12/12/10 共同通信)
日本で難民認定を申請する外国人が今年は過去最多となり、政府による生活費や宿泊施設の提供が遅れ、ホームレスとなって野宿を強いられる人が続出していることが10日、分かった。人権団体は既に50人以上を確認しており、「命にかかわる異常事態だ」と政府に緊急対策を求めている。
母国での迫害を逃れてきた難民は、経済的に苦しいことが多い。このため外務省はアジア福祉教育財団難民事業本部を通じて、困窮している難民申請者に対し、1日1500円の生活費などの「保護費」を支給。住む所もない人にはアパートを無償提供してきた。
だが法務省によると、今年の申請者は1~10月だけで2004人に達し、これまで最も多かった昨年1年間の1867人を既に上回った。外務省によれば、保護費受給者も本年度は月平均320人と、前年度より約6%増え、過去最多の水準だ。一方、不法就労しながら保護費を詐取したとして、難民申請者が逮捕される事件も相次ぎ、同省は審査を厳しくした。
その結果、保護費の手続きが長期化。NPO法人の難民支援協会によると、以前は数日程度でアパートに入れたのが、最近は短くても1カ月半~2カ月、待たされるようになった。この間に所持金を使い果たし、路上で寝泊まりせざるを得なくなる人が続出。同協会は他団体の協力も得て約30人分の宿泊先を確保したものの、今も20人以上が空室を待っているという。
外務省は「来日したばかりで、すぐに家が要るというケースが多く、対応に時間がかかり、遅れが出ている。迅速化に努力していくが、不正受給が疑われる案件は厳格に審査する必要がある」(人権人道課)と強調。
また法務省は、申請が増えたのはトルコ、パキスタンやアフリカ諸国などの出身者だとしつつ「これらの国で政情の変化などは確認しておらず、増加の原因は分からない」(難民認定室)と説明している。
保護費は、難民申請してから認定、不認定の結論が出るまで支給される。昨年、認定されたのは21人にとどまる。
「動物にも巣があるのに」 路頭に迷い、体調崩す
難民申請者が急増し、「最後の命綱」といわれる生活費などの政府支援が遅れている。保護を求めてたどり着いた日本で、文字通り路頭に迷う人も少なくない。
東京・四ツ谷の難民支援協会。冷え込んだ朝、雑居ビルにある事務所が開くと、アフリカ系の申請者約10人が転がり込んだ。レトルトのカレーなど簡単な食事をもらい、床に転がって休む。
「動物にも巣があるのに、人間の私には家がない」。そう憤るのは、ナイジェリア出身の20代男性ボビーさん(仮名)だ。イスラム武装勢力と治安部隊の衝突が続く母国で、政府批判のデモを組織し、警官から暴行を受けた。投獄を恐れ、たまたま短期滞在ビザが取れた日本へ脱出する。
10月に難民認定を申請、保護費を申し込んだ。しかし、いまだに宿泊施設も提供されない。ホテルに泊まる金は尽き、就労は禁じられている。夕方、同協会が閉まれば、駅や公園へ行って寝る。
熱帯で生まれ育った身には、ジャンパーやセーターを5枚重ね着しても寒さがこたえる。「こんな天候は体験したことがない。病気になりそうだ。日本政府は難民を助けてくれないのか」とボビーさん。
同協会の石川えり事務局長は「セーフティーネットは政府の役割。速やかに保護費を支給してもらうしかない」と強調している。
難民
難民 難民条約は、人種や宗教、政治的意見などを理由に、母国で迫害を受ける恐れがある人を難民と定義。加盟国に保護を義務付けた。日本も法相が難民と認定した人には在留を認め、日本語教育や職業訓練を提供している。だが認定者数は欧米諸国に比べ桁違いに少ない。この「条約難民」とは別に「第三国定住」の枠組みなどで、日本はインドシナ3国(ベトナム、カンボジア、ラオス)やミャンマー出身の難民を受け入れている。