(14/3/21 朝日新聞)
2014年3月21日02時14分
日本で20年以上暮らし、日本人の女性と家庭を築いていた。
だが入管は、在留期限が切れたとの理由で拘束し、猿ぐつわをして国外に出そうとした。
その途中、このガーナ人男性は死亡した。4年前に成田空港で起きた事件をめぐり、東京地裁は入管の責任を認めた。
入管職員による過剰な制圧が男性を窒息死させたと断じた。硬直した入管行政を考え直す契機とすべきだ。
この強制送還の手続きで、いったい何が起きたのか。だれが責任を負うのか。法務省は再検証をしなくてはならない。
同省は、本人の持病による病死と主張し、入管職員の制圧に問題はなかったとしていた。
だが判決は、男性は飛行機内でほとんど抵抗しておらず、入管の制圧のやり方は違法だったと結論づけた。
千葉地検は2年前、職員たちの不起訴処分を決めている。今後の検察審査会の判断を待つまでもなく、検察は見直し捜査を始めるべきだろう。
そもそも入管の手続きは、外部の目にさらされることが少ない。国内の容疑者らの拘束をめぐる刑事手続きと同様に、きちんと監視の目を行き届かせる仕組みを検討すべきだ。
国外退去を命じられる人の中には、在留期限を過ぎてはいるが、犯罪に手を染めることもなく、仕事や家族などを通じて日本の社会にしっかり根をはった人が少なくない。日本で教育を受けた子をもつ人もいる。
様々な事情を抱える人びとを一律に犯罪者を見る目で扱うことは避けるべきではないか。
退去の対象となっても、法相が特別に在留を認める制度はある。法務省は06年から、考慮される事情を示したガイドラインを公開しているが、認められるかどうかは当局の裁量にまかされている。
事件後、法務省は本人の同意がない送還を控えていたが、その後再開した。以前は民間機で一人ずつだったが、現在では、ほかの一般客への影響を考慮して、チャーター機で一斉送還している。
一人ひとりの事情を勘案するよりも、一つの便で多人数を送還する効率が優先されがちだ。在留を求め裁判を準備しているさなかに対象になったケースもあるという。
どの国籍の人が、世界のどの地にいても、人間としての権利をもつのは同じはずだ。多様な理由で日本に生活の基盤をもつ人びとを、できる限り受け入れ、共生する寛容な社会でありたい。