在留取引打診 再申請のミャンマー人男性「不法滞在に疲れ…」

(11/1/20 毎日新聞)

「メンバーの安全を守るためだった」--。法務省入国管理局が難民認定を求めて係争中のミャンマー人原告に裁判外で難民認定より制約の多い在留特別許可(在特)を与えるなどと打診していた問題で、交渉に応じたミャンマー人団体の幹部はこう振り返る。政情不安の母国へ強制送還される恐怖、長い不法滞在の疲れ……さまざまな事情を抱える原告側への接触を、弁護士らは「適正な手続きではない」と疑問視する。
00年代前半。ビルマ民主化同盟(LDB)の幹部は「入管側から『難民認定全般について話がしたい』と呼び掛けてきた」と証言する。

東京・霞が関の法務省内にある入管に赴くと、係争中のメンバーに対して裁判取り下げを前提に、在特を与えると持ち掛けられたという。06年ごろまでの数年間で「交渉」は4回。団体側から政治活動に熱心と判断したメンバーのリストを示し、難民の再申請を経て在特だけを得た。幹部は「帰国したら迫害される人もいる。悪いとは思っていない」と説明する。

中部地方の男性はミャンマーで民主化運動に携わっていたが、仲間の逮捕を機に怖くなって90年代に「就学」の在留資格で来日。1年後、不法滞在となり難民申請したが「帰国しても迫害される可能性は低い」として不認定にされた。
「入管から交渉をもちかけられた時は迷った」という。仲間のためにも裁判を続けて勝訴の判例を作る方が良いとは分かっていたが「長年の不法滞在で疲れ切っていた」。
男性の場合は再申請から3カ月後、裁判を取り下げた直後に難民認定された。「初めから認めてほしかった」と振り返る。

全国難民弁護団連絡会議によると、03年以降にミャンマー人が判決を受けた裁判179件のうち32%の57件が原告勝訴。難民認定訴訟で在特だけを認める判決はほとんどなく、勝訴により難民認定を勝ち取った。他国人は5%以下。
事務局長の渡辺彰悟弁護士は、入管がミャンマー人にだけ打診する理由を(1)敗訴例を増やしたくない(2)日本人ジャーナリストらが死亡した07年の反政府デモで軍事政権の危険性を再認識した--などと推測する。
渡辺弁護士は「ミャンマー人でも打診されない人がいたり、他国人は打診されないなど、手続きとして適正と言えない」と批判している。【山口知】

毎日新聞 2011年1月20日 東京朝刊