故郷の民主化に不信感 タイ国境のミャンマー難民キャンプ

(13/7/12 京都新聞)

(コラム「アジアリポート」より)

民主化を進めるミャンマー政府は少数民族との和平プロセスを進め、国際社会も支援に乗り出している。一方で、国境のタイ側のミャンマー難民キャンプでは今も少数民族カレンを中心に約13万人が暮らす。軍事政権下の迫害や俄閑から逃れた難民らは民主化への不信感が根強く、キャンプへの支援減少という不安を抱えながら故郷の変化を見守っている。

タイ北西部メソトから約80キロのウンピアム難民キャンプ。標高千メートルを超える山の斜面に約3100世帯、1万4千人が暮らす。

キャンプで生まれた子どもも多く、17歳以下が4割超。キャンプには小中学校がそれぞれ3校、高校が2校ある。商店などもあり、まるで一つの村のようだ。

「ミャンマーで治安や人権が保障されるかどうか疑問。民主化もまだ信用できない」。キャンプのリーダーでカレン男性のワー・ティさん(56)が難民らの思いを代弁する。

ミャンマー政府は今年4月、定住地を提示して難民らに帰還を促した。しかし、提示されたのはかっての戦闘地域で、今も地雷が多く残る。政府と少数民族武装勢力の一つカレン民族同盟(KNU)は停戦で合意しているが、難民らは戦闘再燃も懸念している。

「少数民族の権利などに関する改憲や、2015年の総選挙の実施状況を見極める必要がある」。カレン難民委員会のロバート委員長も帰還は時期尚早との見解を示す。

「ミャンマーよりキャンプの方がいい」。難民登録を受けられないまま06年から暮らすカレン女性のボー・セ・ソトさん(38)も「政府は信用できない」という。
政府軍とKNUとの戦闘に巻き込まれ、双方から金の無心もされるなど暴力におびえた日々。子どもを学校に行かせることもままならなかった。

「ここでは静かに暮らせる」。食料などは支給され、食べるのには困らない。夫は足が不自由だがキャンプ内の非政府組織(NGO)で働き、月970バーツ(約3100円)とわずかながら収入もある。「子どもにちゃんとした教育を受けさせることが夢」と穏やかに話す。

一方、マ・オーさん(53)とマン・ムーさん(53)のカレンの夫婦は「ミャンマーには何も残っていない」と第三国での定住を希望する。ただ、夫婦は難民登録されたが子どもたちが未登録で申請できないのだという。

これまで最大の受け入れ先だった米国は、今年6月でグループ単位での受け入れを終了するなど、第三国定住は一層狭き門となっている。

現在、難民キャンプでの最大の懸念は支援が先細り気味なことだ。特に欧州連合(EU)はここ数年、ミャンマー本国に支援をシフトし、難民キャンプへの支援額を減らしている。14年に支援を打ち切る方針を示している欧州のNGOもある。

NGO関係者は「難民らは追い詰められ始めたように感じている」と指摘。ワー・ティさんは「国際社会は難民キャンプに関心を持ち続けてほしい」と訴えた。(ウンピアム共同=八谷敏弘)

【写真】タイ北西部のウンピアム難民キャンプで暮らすボー・セ・ソトさんと子どもたち=6月(共同)