国際底流 米NY州の「難民を愛する町」 人口増、相互恩恵で活性化

(16/8/7 京都新聞)

米東部ニューヨーク州に毎年数百人の難民を受け入れて地域の活性化につなげている町がある。大統領選で共和党のトランプ候補がイスラム教徒排斥を主張するのを尻目に、シリア難民を受け入れる計画もある。人口減は止まり、経済は暉つ。難民と地元双方が恩恵を受ける関係だ。国連は「難民を愛する町」と称賛。
欧州各国も注目する。

「ICU(集中治療室)は何の略?」「ベビー(赤ちゃん)のつづりは?」。米国旗が掲げられた教室でミャンマーやネパール、ウクライナ、ソマリアの出身者が真剣な表情で英語学習に励んでいた。
同州中部ユーティカの難民支援センター。この日は救急病院での会話が素材だ。
センターは、厳しい身元調査を経て入国した難民を空港で出迎え、職や住宅から英語指導まで生活全般を支援する。交通ルールを学ぶ部屋では、車の運転シミュレーターにスーダン・ダルフール出身の30代男性がいた。紛争中に父親が殺され、リビアやエジプトを経由して米国に迎えられた。「街を歩いても身の危険はない。静かで気に入っているよ」

ユーティカの人口は1960年に10万人以上あったが、製造業の衰退などで一時約6万人に減少。だが、70年代からベトナム難民を皮切りに計1万5千人以上の難民を受け入れた結果、2010年までに人口増に転じた。
さまざまな出身国の自立した難民が、空き家を買い、事業を始めて地元経済に貢献している。市の広報担当者は「圧倒的多数の市民が難民受け入れを支持、歓迎してきた。難民への『投資』が経済発展という利益をもたらしている」と語る。

ボスニア出身のイスラム教徒らが最近、市役所の隣の教会をモスク(礼拝所)として使い始めた際も反対や抗議の声は出なかったという。6月にフロリダ州でイスラム教徒が起こした銃乱射事件の影響で、ユーティカでも「一部の市民はイスラム教徒への偏見を強めるだろう」(地元牧師)との声があったが、宗派を越えた追悼集会が開かれ、目立った反イスラムの動きは起きていない。

移民や難民をいかに社会に溶け込ませるかが大きな課題の欧州諸国も熱い視線を注ぐ。最近、ドイツやオーストリアのテレビ局も取材に来た。
米国は、難民受け入れを年約7万人から10万人に拡大する方針。だが、トランプ氏が大統領になれば路線変更もあり得るとの懸念もくすぶる。
難民に英語を教える30代の女性は「(トランプ氏に)同意できない。移民は私たちの国を救いはしても、害をもたらすことはない」。支援センター理事長も「地球上には今、かつてないほど多くの難民がいる」と指摘し、誰が大統領になっても難民受け入れを続けるべきだと話す。(ユーティカ共同=岡坂健太郎)

【写真】難民支援センターで運転シミュレーターを使うスーダン出身の男性=5月18日、米ニューヨーク州ユーティカ(共同)