(16/5/21 朝日新聞)
政府は20日、貧困や飢餓を解決するため国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進本部を立ち上げた。シリア難民を留学生として2017年から5年間で最大150人受け入れることを正式に表明。中東の安定化や保健増進に総額約71億ドル(約7800億円)の支援を決め、女性活躍にも注力する。
具体的には、中東地域の人材育成などに今後3年間で約60億ドル(約6600億円)を支援するほか、感染症対策などで国際機関に約11億ドル(約1200億円)拠出。また3年間で女性5万人の学習環境を改善することなどを盛り込んだ。
いずれも26日に始まる主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)で日本が重視する分野で、事前に取り組みを公表し議論をリードする狙いがある。
SDGsは昨年9月に国連総会で採択され、2030年までに国際社会の開発目標として17分野を定めた。参院政府開発援助(ODA)特別委員会でも20日、「SDGs達成のためG7が主導するべきだ」などとする決議を全会一致で採択した。
■厳しい認定手つかず
政府が20日に公表したシリア難民の留学生としての受け入れは、中東の難民を初めて政策的に受け入れる取り組みだ。後ろ向きとも言われてきた難民政策の変化とも言えるが、本格的な受け入れにはなお遠い。
安倍晋三首相は20日の推進本部で「シリアの若者に日本への留学機会を増やしたい」と表明した。日本はこれまで難民条約を厳格に解釈し、紛争から逃れただけでは難民認定せず、申請者に「難民であることの証明」を厳格に示すよう求める傾向が強いと言われている。2015年の難民申請数は7586人に対し、難民認定はわずかに27人だ。
今回、政策を変えたのは、先進7カ国(G7)首脳会談(伊勢志摩サミット)の議長役として会議を成功に導く狙いがあるからだ。難民問題は欧州各国の主要な関心事であり、ある日本政府関係者は「欧州に『お付き合い』する形をとった」と打ち明ける。
ただ、どういう形で受け入れるか、政府内の意見は割れた。外務省は「国際的な趨勢(すうせい)だ」とし積極的に受け入れるべきだと主張。法務省は「国内の世論が熟していない」とした。落としどころとして難民認定制度には手を付けず、「留学生方式」を採用した。国際協力機構(JICA)による途上国の人材育成を支援する「技術協力制度」で年20人。文部科学省の「国費外国人留学生制度」を拡充し年10人と、1年に計30人受け入れることになった。
だが外務省関係者は「対象は大学で優秀な成績を収めることが見込まれる若者」と話す。難民の中でもエリート層のみが対象となる可能性が高い。今年に入り、5人程度の難民受け入れをJICAに打診された筑波大学の常木晃教授(西アジア考古学)は、「小さな一歩だ」と評価しつつも、「助けが一番必要な境遇の難民をこの制度では救えない」と指摘する。
(武田肇)