(15/8/4 信濃毎日新聞 社説)
外国人の入国や在留に関する施策の基本方針を定める「出入国管理基本計画」の改定案を法務省が公表した。難民認定については、制度の乱用を防ぐ必要があるとして、審査手続きを厳格化する姿勢が際立つ内容だ。
欧米各国と比べて受け入れの門が極端に狭い制度をさらに後退させる恐れがある。国連機関や難民支援団体などからも懸念と批判が相次いでいる。考え方を根本的に改めるべきだ。
5年ごとの改定にあたって法務省が設けた専門部会は昨年12月に報告書を提出。保護する対象を明確にすることや、手続きを迅速化すること、認定審査の基準や個別の判断理由を明示して透明性を向上することなどを柱とする制度見直しの具体策を提言した。
改定案は一部を取り入れ、「乱用的な申請」を抑制・制限する仕組みを設けて審査の迅速化を図る方針を打ち出した。一方で、提言にあった、不当な排除が生じないようにする手続き上の保障や配慮には触れていない。
また、制度の透明性向上についてはほとんど言及がない。部会の議論は何のためだったのか。
改定案への意見公募で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、日弁連、NPO難民支援協会などがそれぞれ意見書を出した。日弁連は申請の抑制に著しく偏っていると批判。UNHCRは庇護(ひご)を求める権利を損なう重大な懸念が生じると述べている。
申請中の就労許可に条件を設けることや、本国への送還を検討課題とした点にも懸念が強い。難民支援協会は、働いて自活できなければ生存が脅かされると指摘。送還されないことは難民保護の最も重要な原則だとした。
難民申請は近年急増し、昨年は5千人に達した。就労目的で再申請を繰り返す制度の乱用も指摘される。だからといって不正防止策を強化するばかりでは、難民を守る制度本来の目的を見失う。
中東やアフリカでの紛争などに伴い、世界の難民はかつてなく増えた。アジアでも、ミャンマーから逃れた少数民族ロヒンギャの人々が行き場を失っている。
日本は国際社会での責務として難民保護を率先して担うべきだ。認定が申請者の1%にも満たない現状を変えなければならない。
制度運用の透明性を高め、認定を公正なものにしていくことが欠かせない。UNHCRは緊密な協力の用意があると表明している。連携を深め、制度のあり方を抜本的に見直すときだ。