(15/3/8 読売新聞)
法務省は、難民に該当しない外国人が就労を目的に行う「偽装難民申請」を防ぐため、申請者に一律に就労を許可する現在の運用を見直す方針を固めた。難民ではないことが明白な申請者の就労は認めないようにする。偽装とみられる申請が増えたことで、認定の審査手続きが長期化し、本来の難民救済に遅れが出る事態を避けるためだ。同省は、近く策定する新たな出入国管理基本計画にこうした方針を明記し、改善を急ぐ。〈解説2面〉
「難民認定制度」では、難民申請を行った外国人に対し、申請から半年後に国内で働く資格を自動的に与えている。申請者の生活に配慮し、民主党政権が2010年、生活困窮者に対してだけ優先的に認めていた就労資格を「一律」に見直した。これを契機に偽装とみられる申請が急増した。
一方、申請者は、仮に申請が「不認定」になっても、異議申し立てや再申請を繰り返すことができる。このため、就労を目的に再申請などを続け、働きながら滞在し続けることができるようになった。学費が払えなくなり、申請する留学生や、外国人技能実習生として来日したものの、実習先から逃亡し、申請してくるケースなどがある。今後も再申請などはできるが、その間の就労はできなくなる。
法務省は、就労許可を厳格化することで、就労目的での申請を減らしたり、帰国を促したりすることができるとみている。出入国管理基本計画に定めるとともに、通達で運用を見直す。
難民の認定は、地方の入国管理局の難民調査官が審査を行い、法相が決める。法務省は、本人が外国人技能実習生かどうかを確認したり、生活実態の調査などを厳しくする。審査に要する期間は、11年度の平均5・25か月から、現在は約7・3か月にまで延びている。同省は、現在約100人の調査官を増員し、手続きの迅速化も図る構えだ。
同省は昨年11月、偽装申請を指南していたネパール人ブローカーを摘発した。日本の制度が就労に利用できるという情報が、外国人滞在者の間で知れ渡っているとみられる。
〈難民認定制度〉
人種、宗教、国籍、政治的意見、特定の社会的集団の構成員であることを理由に、本国で迫害を受ける恐れがある外国人を保護し、日本での定住を認める制度。申請で不認定になった場合は異議申し立てが可能で、異議申し立てが「理由なし」とされても再申請ができる。2013年の申請者は3260人で、そのうち再申請者は720人、認定者は6人だった。
偽装難民防止 技能実習制度維持に必要(解説)
難民認定申請者への就労許可は、申請者が審査期間中に経済的に困窮しないよう設けられた。2010年までは生活困窮者に限って認めていたが、困窮状態にあることの証明が困難な上、難民支援団体などから「申請者の生活をきちんと保障すべきだ」という要望もあり、一律全員に拡大された。
難民認定の申請は、必ず受理される。申請理由がずさんでも、半年が経過すれば自動的に就労許可が得られる。その結果、偽装申請の横行につながった。
偽装申請の中には、日本で働きながら技術を学ぶ「外国人技能実習生」として来日した外国人が、より好待遇の就労先に移るため、実習先から逃亡して行う例もある。申請の約8%が、技能実習生によるものだ。労働力人口が減少するなか、安倍政権は、技能実習生の受け入れを拡大していく方針で、難民申請すれば、簡単に就労できる状況の改善は、技能実習制度を健全に維持するためにも重要だ。
法務省は今後、申請理由の内容次第で就労許可を与えるかどうか判断することになる。申請理由そのものを巧妙に偽装する例が出てくる可能性もある。審査を一層厳格に行うとともに、再申請などの際に、理由がほぼ同じ場合は、却下できるようにするなどさらなる対策の検討が必要だ。
一方で、本来は救うべき人を排除しないことも大事だ。誤って「明らかに難民に該当せず」と判断し、就労不可とすることで、難民として救済される道を閉ざしてはいけない。難民調査官の強化も必要になってくる。(政治部 中田征志)