ロヒンギャ帰還巡り反発も 割れるミャンマー社会

(18/1/27 東京新聞)

2018年1月27日朝刊

 ミャンマーで迫害され、バングラデシュに逃れたイスラム教徒少数民族ロヒンギャ難民の帰還問題をめぐり、ミャンマー社会が揺れている。帰還開始は当初開始予定の二十三日から延期されたが、仏教徒を中心に、実施に反発する声も少なくない。一方で、宗教や民族間の分断への懸念も聞こえる。(ミャンマー中部ヤンゴンで、北川成史、写真も)

 ロヒンギャの居住する西部ラカイン州から約五百キロ離れた最大都市ヤンゴン。繁華街の飲食店に勤める同州出身で仏教徒の女性(26)は「戻ってきてほしくない。また混乱が起きる」と目を伏せた。

 一九八〇年代、民主化運動の中心になったヤンゴン大。ビルマ人で同大三年の女性(19)は「バングラデシュで支援を受けた方がいい」と話した。ミャンマー政府はロヒンギャを古来の一つの民族と認めず市民権を与えておらず、帰還しても現状では不法移民扱いとなるからだ。

 今回、帰還した難民には臨時的な身分証明書を発行するが、正式に市民権を得るには、ロヒンギャではなく、バングラデシュ出身の「ベンガル人」などとして申請しなければならない。ロヒンギャのルーツは、十五~十八世紀にラカイン州地域で栄えたアラカン王国に居住していたイスラム教徒とされる。また二十世紀に入ってバングラデシュから移住した人もおり、ロヒンギャを独自の民族と見るかは、どの時代を重視するかで大きく異なる。

 ヤンゴン中心部にはイスラム教徒が経営する商店が軒を連ねる地域がある。眼鏡店経営の男性(29)は六十八万人を超える難民流出を呼んだ治安部隊などの迫害を念頭に「国民と認めず追い出しておいて今度は帰還とはふざけている」と憤る。

 文具店経営の男性(56)は「帰還させて市民権を与えれば、『国を支えよう』という気持ちが高まる。政府やロヒンギャ、仏教徒らは争うのではなく、もっと話し合うべきだ」と求める。何人かは「話したくない」と口をつぐんだ。仏教徒中心の社会でのイスラム教徒の微妙な立場が漂う。

 「権利が保障されなければ、難民は戻りたくても戻れない」。ヤンゴンで暮らすロヒンギャ男性で政治団体代表のチョー・ス・オンさん(54)は訴える。「ロヒンギャはバングラデシュのベンガル人とは言葉も違う。安心して住めるのは自分の国であるミャンマーだ」