(17/9/23 宮崎日日新聞 (社説))
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャに対する治安当局の暴力が激化して多数が難民となり、人道危機が深刻化している。昨年4月に政権トップとなったアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相も対応に消極的で、世界で批判の声が高まっている。だが、国軍の力が強く民主化の途上にある同国の現状では、問題の早急な解決は望み薄だ。日本を含め国際社会が結束して暴力停止を促し、人道支援に取り組むべきだ。
民族浄化に非難の声
政権発足以降、最大の難局に直面しているスー・チー氏は19日、首都ネピドーで演説し、ロヒンギャ迫害問題の平和的な手段での解決を目指すと表明した。「全ての人権侵害を非難する。国際的な調査を恐れない」と述べ、国連などの調査受け入れを示唆。しかし演説では、自国民族と認めていないロヒンギャへの市民権付与など問題の本質には踏み込まなかった。
ロヒンギャの住む西部ラカイン州で8月から、治安当局とロヒンギャ武装集団の衝突が激化。400人以上が死亡し、40万人前後が隣国バングラデシュに逃れた。武装勢力ではない多くの住民も殺され「典型的な民族浄化の様相だ」(ゼイド国連人権高等弁務官)という。極めて憂慮すべき状況だ。
ロヒンギャは国民の大半を占める仏教徒から差別され、1970年代から一部が難民としてバングラデシュに逃れた。軍事政権が国民の不満をそらすため迫害を強めたといわれる。97年のミャンマーの東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟に当たって世界最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアなどが迫害をやめるよう水面下で強く求めた経緯があり、問題は沈静化したが、近年再燃した。
市民権付与実現せず
2012年、ラカイン州でイスラム教徒と仏教徒との対立が激化。昨年10月から暴力事件が続発し、国連人権高等弁務官事務所は今年2月、治安当局が殺害やレイプに組織的に加担したという報告書を公表した。政府が設置した諮問委員会(委員長・アナン元国連事務総長)が8月発表した報告書では、ロヒンギャ避難民に市民権と移動の自由を認めるよう勧告したが、実現のめどは立っていない。
仏教徒の間ではロヒンギャは「不法移民」という見方が大勢で、絶大な人気があるスー・チー氏も配慮せざるを得ないようだ。軍事政権下で制定された現行憲法では国軍が強大な権力を握る。軍に有利な規定が多い憲法の改正を重視しているとみられるスー・チー氏には、軍や仏教徒との対立を避けたい考えもあろう。
国軍・治安当局は軍事行動を停止すべきだ。スー・チー氏にも国際社会の期待に応えて一歩踏み出す決断を期待したい。迫害が続けば近隣の過激思想を刺激し、テロや地域の不安定化につながりかねない。ミャンマー支援に力をいれてきた日本をはじめ、各国が協力して危機回避に努めるべきだ。