[ロヒンギャ難民]日本も人道支援を早く

(15/5/31 南日本新聞)

 ミャンマーの少数民族「ロヒンギャ」を乗せた多くの船が周辺海域で漂流している問題は、難民の体調悪化や食料不足など深刻の度を深めている。

 タイ・バンコクで支援策を話し合う関係国会合が開かれた。しかし、救援の強化や暫定的な上陸先を決める方法の検討などを決めただけで終わった。

 マレーシア当局は船に子どもや女性、高齢者を含む約7000人が乗っているとみている。事は人命に関わる待ったなしの問題だ。関係国や国際機関は有効な保護策を急ぐべきである。

 見逃せないのはオブザーバー参加した日本の支援策がほとんど見えないことだ。

 同じオブザーバーだった米国は難民の保護草などに、300万ドル(約3億7000万円)の追加拠出を表明した。

 日本も医療支援や水・食料の供給、関係国会合の早期再開など貢献できる分野があるはずだ。

 積極的平和主義を掲げる安倍政権は大上段のスローガンだけでなく、緊急の人道支援にこそ力を注いでもらいたい。

 ロヒンギャはミャンマー西部に住むイスラム教徒だ。国連の推計で約80万人い
る。19世紀にはインドのイスラム教徒も流入した。

 こうした経緯から、仏教徒が約9割のミャンマーではロヒンギャへの差別が根強い。政府も1982年の法律で自国民と認めず、不法入国者扱いにしてきた。

 難民は2012年6月、仏教徒とロヒンギャの問で多数の死者が出た衝突がきっかけだった。

 その後、大量出国が相次いだ。タイ南部やマレーシアの北部では、相手国民から殺害されたとみられる数百人規模の「集団墓地」も見つかっている。

 被害者は、イスラム教徒が多いマレーシアやインドネシアへ職を求めて密航を試み、人身売買組織の手にかかった可能性が高い。

 周辺国は一部の難民を受け入れた。だが、定住化などを恐れて難民船を追い返してきた。

 ようやく今月、マレーシアとインドネシアが漂流中のロヒンギャら約7000人に「一時進難所」を提供することで合意した。国際社会による1年以内のよそへの移住や帰還手続きが条件である。

 両国の対応が示すように、国籍を持たない大半のロヒンギャは避難先で難民認定されず、正当な保護を受けるのが難しい。

 海外へ逃れたロヒンギャは10万人以上に上るという。国際社会、とりわけ同じアジアの日本は、この人権問題の重大さを見過ごしてはならない。