(12/7/7 西日本新聞)
改正入管難民法が9日に施行される。在日韓国人などの特別永住者を除き、3カ月を超えて日本に滞在する外国人には法務省入国管理局が偽造防止の集積回路(IC)チップ入りの在留カードを交付する。住所の登録や変更届を出さないと強制退去につながる厳しい規定も新設される。施行を前に外国人や支援者に話を聞くと、歓迎と不安が交錯していた。
日本人の男性と結婚して26年、国から初めて家族として認められた気がした-。熊本市東区のフィリピン国籍、松田アデラさん(47)は5月、施行に向けた周知のため市から送られてきた「仮住民票」に胸を躍らせた。夫と子どもとともに自分の名前が並んでいた。
これまで外国人に住民票は発行されなかった。住民基本台帳の対象外だったからだ。日本人である夫と子どもの住民票の「備考欄」に、アデラさんの名前は書かれていた。「永住者で同じファミリーなのに…、寂しかった」。新制度ではアデラさんにも住民票が発行される。
出国し、1年以内に再入国する際の手続きも変わる。現在は入管で再入国許可の事前申請(手数料3千~6千円)が必要だが新制度は不要。「里帰りなど便利になりますね」とアデラさん。
一方、住所の登録や変更をめぐる罰則は強化される。現制度は14日以内に自治体に届けないと20万円
以下の罰金。新制度はこれに加え、入院などの理由がなく無届けが90日を超せば在留資格の取り消し、強制退去につながる。国士舘大の鈴木江理子准教授(移民政策)は「強制権が拡大するのに、制度の周知が十分ではない」と指摘する。
自治体は5月初旬、外国人が現在登録している住所に仮住民票を発送したが「宛先不明」の返送が相次いだ。熊本市は全体の12・2%に当たる378世帯、福岡市は同6・6%(1130世帯)、北九州市は同3・9%(314世帯)だった。「居住地と登録住所が異なり、新制度を知らない人も多い」と鈴木さん。「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」(東京)の調査では、自治体は広報紙やホームページで啓発するが、日本語での記載のため理解できない人もいるようだ。
無届けは現行法でも違反だが、新制度では在留資格を失う。入管は「機械的にすぐ取り消すことはなく、諸般の事情を聴いて判断する」というが不透明だ。
これまではオーバーステイなどの不法滞在でも、自治体に外国人登録をしていれば義務教育などの住民サービスを受けることが黙認された。新制度は不法滞在者に在留カードは発行しない。入管は「新制度は不法滞在者対策の一環で、出頭を促すことが趣旨」と説明する。外国人支援の市民団体「コムスタカ」(熊本市)の中島真一郎代表(57)は「社会との接触を絶ってしまい、ブローカーにだまされたり、非合法な仕事に手を染める不法滞在者が増えることも考えられる」と心配している。