(14/4/6 東京新聞)
2014年4月6日朝刊
強制送還の対象となった外国人が収容されている法務省東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で三月末、四十代のカメルーン人男性と三十代のイラン人男性が相次いで死亡した。関連や事件性はなく、センターは「適正な救命措置を講じた。処遇上の問題はない」としているが、収容者の支援団体や弁護士から「医療体制が不十分だ」と批判の声が上がっている。(妹尾聡太)
センターによると、カメルーン人男性は三月三十日午前七時ごろ、一人部屋で意識を失っているのを見回り中の職員が見つけ、一時間後に搬送先の病院で死亡した。二十七日に体調不良を訴えてセンター内の非常勤医師の診察を受けたが、「重篤でない」と判断されていた。
一方、イラン人男性は二十八日午後七時五十分ごろ、夕食をのどに詰まらせて窒息し、搬送先の病院で翌日午後に死亡した。
センターには常勤医はおらず、非常勤医が来るのは平日の午後一~五時のみ。いずれのケースも施設内に医師は不在だった。
救急車が到着するまで職員が心臓マッサージなど救命措置を行っており、センターは「対応に問題はなかった。偶然にも不幸な事案が続けて発生した」と過失を否定している。
しかし、ボランティアで、収容者に面会や差し入れをしたり、仮放免の手続きを助言したりする支援者らは、医療が不十分だと指摘。支援団体「牛久の会」代表の田中喜美子さん(61)によると、カメルーン人男性は糖尿病を患っていたが、治療の機会を制限された。田中さんが男性と同室の収容者に面会して聞いた話では、男性は以前から外部の病院での治療を申請していたが許可されず、三月未には自室内を歩くのも困難なほど体調が悪化していたという。
センターは「重篤な患者を放っておくことはない」と話すが、非常勤医が待機する平日午後のみでは急患対応は難しい。主に難民事件を扱い、二人の相談に乗っていた大川秀史弁護士は「弁護士が求めれば外部で受診させてくれる場合があり、協力的な職員もいる」と評価しつつ、「医師の二十四時間常駐が必要だ」と医療体制の充実を訴える。
時には一年以上にわたる長期収容や、施設の閉鎖性も健康の悪化要因とみられている。「迫害から逃れてきた」と主張していたカメルーン人男性は、昨秋の入国時に成田空港で拘束され、センター収容は半年に及んだ。強制送還の対象となったが、難民申請をしていたという。大川弁護士は「刑務所でもないのに居室は外から施錠され、窓の外も見えない。そんなところに長期間いれば心身ともにめいる」と懸念し、仮放免を認めやすくするなどして、収容期間を短縮するよう主張している。
◆病状悪化 自殺…以前から問題
東日本入国管理センターでは、過去にも収容された人の病状悪化や自殺があり、心身ともに過酷な環境が問題になってきた。
近年では二〇一〇年にブラジル人と韓国人の男性二人が自殺。収容されている外国人の支援団体「牛久の会」代表の田中喜美子さんによると、ほかにも自殺未遂をして入院した人や、仮放免後に持病を悪化させて死亡した人がいた。田中さんは、十分な医療を受けられないまま、収容が長期に及ぶことが要因だとみているが、医療の不備を背景として収容中に死亡したと疑われる事例は「今回が初めてだろう」と語る。
「なかなか医者に診てもらえない」「外の病院に行きたい」。支援者が収容者と面会すると、いつも医療への不満が挙がる。国籍や文化の違う者同士が数人の相部屋で寝起きするため、ストレスがたまって不眠に陥り、精神疾患にかかる人もいるという。
支援団体はこれまでも処遇の改善を訴え、収容者もハンガーストライキなどで度重ねて抗議してきた。今回のカメルーン人男性らの死亡は、そうした抗議が続く中で起こったものだった。
<東日本入国管理センター>
不法残留など入管難民法違反容疑で摘発され、強制送還を命じられたが「本国で迫害される」「日本に家族がいる」といった理由で送還を拒否する外国人の収容施設。定員700人で、現在約300人が収容されている。刑罰目的でないため収容者は外部と通信もできるが、自由は制限される。一時的に拘束を解く仮放免の制度もある。