(18/1/12 朝日新聞)
小松隆次郎 2018年1月12日 14時20分
法務省は12日、1万人を超える難民申請者数を抑えるため、難民認定制度の運用を変更すると発表した。書面審査で就労目的とみられる申請者を選別し、これまで申請者に一律に認めてきた在留や就労を大幅に制限する。申請者を減らし、長期化していた審査期間を短縮するねらいで、15日の申請分から運用を見直す。
出入国管理法は難民申請中は強制送還されない、と定めている。同省は2010年3月以降、入国時に短期滞在や技能実習、留学などの在留資格があれば、難民申請の6カ月後から就労を認めてきた。これを受けて、難民申請者数が10年の1202人から急増し、16年には1万人を突破。17年も9月までに1万4043人に達した。
審査量の増大で審査期間が長期化し、審査官の面談などを含む1次審査が平均で9・9カ月、不認定後の不服申し立てに対する審査は23・4カ月かかっている。日本の難民認定者は16年は28人、17年も9月までで10人だった。
このため、同省は難民申請後2カ月以内に、書面審査のみで申請者を「難民の可能性が高い(A)」「明らかに難民に該当しない(B)」「同じ理由での再申請(C)」「A、B、C以外(D)」の4種類に区分。BとC、再申請のDには在留資格を与えず、審査と並行して、強制退去の手続きを進める。Bは母国での金銭トラブルや就労目的での来日者を想定しているという。
Aには申請から6カ月を待たずに就労可能な在留資格を付与。Dにも申請の6カ月後以降に在留資格を与えるが、実習先を逃げた技能実習生や退学した留学生らの就労は認めないという。
同省は申請者の増加を抑えるため、15年9月以降は、同じ理由で複数回の申請を繰り返す外国人の就労や在留を認めてこなかった。だが、初回の申請者が全体の9割を占めており、申請の増加に歯止めがかかっていなかったという。
法務省「真の難民の迅速保護に」
法務省は、難民申請者に対する在留や就労の大幅制限で、アジア諸国を中心に広がる「日本では、審査中なら働ける」という認識を打ち消したい考えだ。
同省によると、昨年1~9月の1次審査で不認定となった申請者の半数以上が、「母国で借金を返済せず、脅されている」など、明らかに難民とは言えないケースだった。こうした申請者の増加に審査スピードが追いつかず、1次審査が終わらない申請者は昨年9月末で1万6658人に上り、前年同期から7千人以上も増えている。
法務省は今回の制限策を「真の難民の迅速な保護につなげる」と説明する。だが、日本の難民認定者数は低調なままで、新たな制限が、「難民に冷たい国」という悪印象を国内外でより広げる可能性もある。難民条約の批准国として、申請者の抑制に励むだけでなく、実効性ある難民保護の方策を打ち出すべきだ。(小松隆次郎)