法務省、難民申請者の就労制限 保護すべき人排除の懸念

(18/1/22 京都新聞「核心評論」)

法務省は15日、難民認定申請者の就労許可などを制限し始めた。日本で働くために虚偽の難民申請をする外国人が急増し、認定審査に支障が出ているからだと説明する。しかし、難民として認定するべき人々を排除してしまう懸念も強い。

政治的意見や宗教を理由に母国で迫害の恐れがある難民について、日本を含む難民条約加盟国は、保護する義務を負う。法務省は2010年以降、日本で難民申請した人が自活できるよう、申請の半年後から原則として就労を許可してきた。

同省によると、難民申請者数は10年の1202人から16年に1万901人に増加。昨年は1~9月だけで1万4千人を超えた。母国での借金のトラブルなど、条約上の迫害に当たらない理由による申請が目立つという。

制度の乱用を抑制するため、法務省は本来の認定審査の前に、2カ月以内の簡単な審査で申請者を分類。明らかに難民に該当しない場合や、何度も申請したケースでは、就労を許可せず、在留期限後は退去強制手続きを進めることにした。

だが、命からがら母国を脱出した難民の中には、迫害の事実を立証できる資料を持たないような人もいる。不十分な審査によって、難民に該当する人まで門前払いされる可能性はないか。

実際、申請を繰り返した末に、ようやく難民と認定された例は多い。申請回数で対応を厳しくすれば、保護するべき人を困窮させたり、収容施設に身柄を拘束した上で強制送還したりすることになりかねない。
欧米諸国が毎年、千人、万人単位で難民を受け入れているのに対し、日本が16年に認定した難民はわずか10人。これまでも「難民鎖国」と内外から批判されてきた。今回の見直しで、認定者がさらに絞り込まれるとしたら、本末転倒だ。

仮に乱用対策が必要だとしても、難民を確実に認定し保護するための是正策も導入しなければ、バランスを欠く。あいまいな認定基準を明確にし、不透明な審査を改善して弁護士らの立ち会いを認め、申請者の母国に関する情報を充実させることなどが求められている。条約上の難民に該当しない、武力紛争を避けて日本に逃れてきた人らに、救済の枠を広げていくことも課題だ。

法務省は、不認定への不服申し立ての審査で、自ら委嘱した有識者の「難民審査参与員」から認定するべきだとの意見が出ても、再び不認定としたことが少なくない。裁判所が不認定処分を取り消す判決を下したのに、認定を拒んだことさえある。同省は制度改正以前に、かたくなな姿勢を改めなければならない。

誤って難民を認定せず、母国に送還すれば即、命に関わるのだから。(共同通信編集委員 原真)