難民映像に心痛め… 市民が建物無償提供、大阪に支援施設

(16/9/30 朝日新聞)

北村有樹子 2016年10月1日05時14分

日本で難民認定を求める人たちを支える拠点が来月1日、大阪市内にできる。紛争などで母国を追われた難民の映像に心を痛めた市民が建物を無償提供し、支援団体が開設にこぎつけた。海を越えて逃れてきた人たちが身を寄せられる場にするとともに、地域住民との交流の場を目指す。

■築50年の住宅「居場所に」

名称は「OSAKAなんみんハウス」。地下鉄御堂筋線東三国駅から徒歩5分ほど。昔ながらの町なかにある、築約50年の住宅だ。難民支援団体「在日難民との共生ネットワーク」(通称・ラフィック)が設置し、運営にあたる。
住宅の所有者の女性(57)は昨年、中東から欧州に向かう大勢の難民が国境で足止めされているニュースをテレビで見た。日常を奪われたその姿に、いたたまれない気持ちになった。日本にも野宿する難民申請者がいることも分かった。

一方で、欧州の一般市民が、疲れている難民に食べ物を配っているシーンにも心を動かされた。「自分にも何かできることはないだろうか」。ネットで難民支援の団体を検索し、ラフィックを見つけ、連絡した。「雨風をしのぐために、必要としている人がいれば空き家を無償でお貸ししたい」。今後は食器や家具など使わない品を集めて寄付することを考えている。

ラフィック共同代表の田中恵子さん(62)は「本当にありがたい申し出。不安な思いを抱えている人たちが、悩みを相談したりくつろいだりできる居場所にしたい」という。そして、いずれは各国の料理を振る舞い、地域の人も集えるサロンのような空間を目指したいと思い描いている。
ラフィックは、地元の町内会にも加入する。井有一南(いゆういちみなみ)新興町会の莇(あざみ)照雄会長によると、地域は高齢化が進み、一人暮らしの人もいる。「最初はお互い戸惑いもあるかもしれないが、接する中で打ち解けていきたい」と話す。

■生活もサポート

ハウスの1階はラフィックが事務所を置き、難民認定に関する問い合わせに応じたり、生活支援をしたりする。2階は住む場所に困った難民申請者たちのシェルターに使う。書棚を設け、日本語の教材や出身国の言語の本・DVDもそろえる。各地の難民支援の団体によると、難民申請者にこのような総合的なサポートを提供する施設は、全国的にも珍しいという。

ラフィックは2002年に設立。いまは、紛争や迫害などでアフガニスタンやガーナ、エジプトから逃れて来た約40人と関わっている。これまでは、大阪府高槻市にある貸事務所で活動してきたが、手狭なため十分な対応がしづらかった。

ラフィックによると、欧州に渡ろうとするシリア難民の問題が国内でも盛んに報道された昨年から、難民の問題に関心を持つ市民や学生が増えているという。このため、難民問題について身近に学べる場にもしたい考えだ。

難民申請した人たちは半年間は就労できず、生活に困っている場合が少なくない。ラフィックから食料の支援を受けている北アフリカ出身の50代男性は、なんみんハウスについて、「心強い。難民認定の手続きなどをサポートしてもらえる」と話す。

国内の多文化共生に詳しい甲南女子大学文学部の野崎志帆教授は「あいさつしたり、一緒に食事したりして、互いに一人の人間として知り合うことが共生には大切」といい、「難民や、難民支援に関わる若者が地域の活性化に一役買う可能性もある」と期待を寄せる。

■現地で見学会

10月1、2日に、「OSAKAなんみんハウス」の見学会がある。1日は午後3~8時、2日は午後1~5時。予約は不要で誰でも参加可。各国の飲み物が楽しめる。難民に関する写真展示やDVDの上映もある。問い合わせはラフィック(rafiqtomodati@yahoo.co.jp)へ。(北村有樹子)

〈日本の難民認定〉 法務省によると、日本で今年1~6月に難民認定を申請した外国人は5011人(速報値)。過去最多だった昨年1年間の7586人を上回って年1万人に迫るペースという。一方、同じ1~6月に難民と認定された人は4人。このほか、33人が人道的な配慮で在留を認められた。審査には、平均で1年近くかかっている。