受け入れ見据え議論を ★難民問題と日本☆

(15/10/30 京都新聞)

デマ、やゆが流布 メディアに検証、打ち消す役割

欧州への難民流入が止まらない。欧州連合(EU)は16万人の受け入れを決めたが、東欧諸国を中心に受け入れ人数の割り当てに対する反発の声は強く、主導するドイツの国内でも不満が噴出し始めた。日本はどう向き合うのか。
「このままでは、いずれ世界から相手にされなくなってしまう」とジャーナリスト田原総一朗は公式ブログ(10月19日付)で危ぶむ。安倍晋三首相は970億円の経済支援を表明する一方、受け入れには難色を示している。田原は、日本がかつて1万人以上のインドシナ難民を受け入れた実績に触れ「お金だけでなく、積極的に援助の手を差し伸べること。それこそが、本当の意味での『安全保障』になるのではないか」と問い掛ける。

★5千人中11人☆

昨年、日本で難民申請した5千人のうち、認定されたのはわずか11人。国連難民高等弁務官事務所広報官の守屋由紀はニュースサイト「ブロゴス」編集部のインタビューに、大学や医療分野での支援を挙げ「(他国と)比較するのではなく『日本らしさ』がもっとあっていい」と訴えるが、事態はより差し迫っているのではないか。

★善意だけでは☆

元外務省主任分析官の佐藤優は、明治大特任教授の山内昌之との対談「シリア難民が成田に押し寄せる日」(「中央公論」11月号)で、欧州諸国のような「割り当て」が日本にも課せられる可能性を指摘。さらに欧州の非政府組織(NGO)などの支援で空路難民が殺到する可能性にまで踏み込み「我々の『知らない』人たちを、一気に何千人も受け入れた時のことも、本気で考えておく」必要性を訴える。

「難民問題は善意と人道主義だけでは解決しない」とEUを冷ややかにみる作家の川口マーン恵美も「EUに国境復活!? 難民で消えゆく『ヨーロッパ統合』幻想」(「正論」11月号)で、朝鮮半島有事で難民が発生した場合、日本は「大国の義務として全面的に庇護しなくてはならない」のに、想定すらほとんどしていない現状を憂える。

そんな中、9月には「他人の金で。そうだ難民しよう!」と難民をやゆする日本人漫画家のイラストがインターネットで公開され、内外から批判を浴びた。
英国在住のジャーナリスト木村正人は自身のブログ(10月6日付)で、英国などでも「難民が年金生活者よりはるかに高額な経済的支援を受けている」とするデマが流布していることを紹介。日本での「在日特権」のデマを思わせるこうした排外主義的な主張が海外でもまん延していることを危惧する。
ソーシャルメディアの普及で偏見や嫌悪が急速に拡散する時代。木村は「『経済移民』『偽装難民』をことさら強調するのは木を見て森を見ずだ」とし、デマを検証し打ち消す役割をメディアに期待する。冷静に、しかし早急に議論を進めたい。    (敬称略)