ミャンマーから受け入れ 難民自立へ受け皿必要

(11/10/19 読売新聞)

 (「論点」 滝沢三郎氏寄稿)

政府は昨秋から、タイのメラ難民キャンプに住むミャンマー難民を年間約30人受け入れている。3年間で約90人を試験的に再定住させる計画だが、第一陣として来日し、千葉、三重両県に定住した5家族27人の自立が難航している。その原因を探るため、私は国内調査に合わせ今夏、メラ難民キャンプを訪問した。

第1陣の家族は、不自由な日本語に加え、厳しい就労条件、長時間の通学、一緒に来日した仲間と離れて地域で孤立するなど、予想しなかった生活に直面している。すでに、こうした状況は難民キャンプでも知られており、日本行きの関心は低下している。第2陣として今秋来日予定だった6家族に対し、政府が「共働きでないと日本での生活は厳しい」と伝えたこともあり、不安感から1家族が辞退し、来日は5家族23人に減った。

難民の自立が難しい原因は、現行の再定住の仕組みにある。まず選考の基準が厳しく応募できるのは夫婦と子どものいる家族だけ。共働きも事実上は条件の一つだ。難民キャンプには、意欲もあって、学業も優秀で、日本に行くことを強く希望する若者たちも多かったが、今の制度では、彼らに応募資格はない。
また、来日当初の定住支援が短すぎることもある。日本語学習など半年間の研修だけで日本での自立が不可能なことは、かつて日本が1万1000人のインドシナ難民を受け入れた際にも指摘されたが、政府の対応は今回も変わらない。
さらに、外務省が外郭団隊「アジア福祉教育財団難民事業本部」(東京都)だけに定住支援を委ねているのも問題だ。
定住には親身になって世話のできる民間活動団体(NGO)、地域住民と難民をつなぐ自治体の関与が不可欠だが、両者ともに蚊帳の外に置かれている。

私は長野県松本市で難民受け入れの市民活動を展開してきたが、地域での受け皿づくりに消極的な政府の姿勢を痛感している。
政府の情報開示も不十分だ。個人情報の保護の名目で外部との接触を断たれた定住支援施設で半年間の適応訓練を受けた難民は、退所後は直ちに経済的自立を求められる。これでは難民の「囲い込みと放り投げ」に近く、難民が悲鳴を上げるのは当然だろう。

このままでは3年の試行終了前に難民が来なくなる可能性がある。毎年数百人から数千人単位で定住希望者が殺到する欧米とは比較にならないが、再定住が失敗に終わるなら、アジア初の試みとして期待されていただけに、「日本は数十人の難民も受け入れられない国」として、国際的イメージは大きく傷つくだろう。
再定住制度を定着させるためには、受け入れ基準を緩和し、定住した地域で日本語学習や職業訓練を継続的に受けることができるように、政府はNGOや自治体に呼び掛けて官民共同のための協議の場を設けるべきだ。何よりも、迫害や紛争で故郷を失った寄る辺なき人々を救うという人道主義の原点に戻り、再定住という「国境を越えた絆」を守るべきだろう。

滝沢 三郎氏
東洋英和女学院大教授。2007年から08年まで、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表。09年から現職。63歳。