「的外れ」現場は反発、留学審査厳格化 新方針「不法」「進学」も同一視

(17/2/20 西日本新聞)

2017年02月20日 06時00分

東京入国管理局が2月10日付でアジア5カ国の審査厳格化を日本語学校に伝えた文書

各地の入国管理局が今月に入り、日本語学校に送っている一枚の文書。唐突に2年前のデータで「除籍・退学者が10人以上」だったとし、留学生の入国審査を厳格化する内容が波紋を広げている。不法残留も、大学進学も「退学」とひとくくりにする乱暴さ。対象がなぜ5カ国なのかも定かではない。学費や生活費のため、法定基準を超えて働く留学生に頼る日本社会の実態も考慮されていない。「的外れな対応」「現場を知らないお役所仕事」。関係者からは批判が上がる。

東京入国管理局は2月10日付で文書を送った。九州・沖縄を管轄する福岡入国管理局も近く、各学校に説明するとしている。

法定の「週28時間」を超え就労する留学生が多いのは事実だ。出稼ぎ目的の留学生や、こうした学生を利益重視で大勢入学させている学校もある。事態を「改善」するため、入管当局は今回の厳格化方針を打ち出した。

だが、福岡市の日本語学校の経営者は「退学者の中には病気で帰国したり、就職したりする学生もいる。ペナルティーを避けるため、彼らを引き留める人権侵害行為を招く恐れもある」と指摘する。

東京都内の日本語学校の校長は「学校の規模にかかわらず『10人以上』というのは乱暴だ。母国でかなりの日本語能力をつけて来日し、在学途中で大学合格する留学生もいる。優秀な学生の獲得があだとなりかねない」と非難し、「現場を知らない官僚が考えたとしか思えない」と続けた。

新方針は7月入学者から適用されるが、必要書類の提出期限は3月中旬。
「この時期の急な方針に現場は混乱し、ベトナムなどでは送り出し機関が対象外の学校を探し回っている」(関係者)という。

入管は厳格化策として、現地金融機関の出入金明細書などを新たに求めた。
だが、この種の証明書がない国があるほか、「現在提出が必要な残高証明書も偽造が横行している国もある。新たな書類を求めても、偽造が増えるだけだ」との声も出ている。

関東にある別の日本語学校の校長は「こんな締め付けをしても根本的な解決にならない。深夜のコンビニや運送業など、留学生の労働力に頼っている業界から悲鳴が上がるだけだ。他の省庁と連携して奨学金を出すなど、留学生を支援する政策を考えるべきだ」と語った。

●根本的矛盾にメスを 上智大の田中雅子准教授(国際協力論)の話

法務省は5カ国を選んだ理由を開示する必要がある。その上で、先方の政府と協議して現地の留学仲介業者を指導すべきで、学生の学習権を奪ってはならない。入国前審査で重要なのは仕送り能力よりも語学力だ。就労目的の留学生が日本語学校に在籍しているのは事実だが、建前上は移民を認めず、「留学生30万人計画」を掲げて外国の若者に安価な労働力を求めている根本的な矛盾にこそメスを入れるべきだ。労働力が必要なら、時間を限定せず就労できる在留資格を設ける以外にない。不法残留・就労は大幅に減るだろう。

=2017/02/20付 西日本新聞朝刊=