(16/6/13 朝日新聞)
【写真】「難民と認めてもらう日が早く訪れて欲しい」と話す大学生のイーダック・モハマッド・レザさん=2日午前、京都市上京区、滝沢美穂子撮影
紛争や迫害で住む場所を追われた世界の難民や国内避難民は第2次世界大戦以降、最多を更新している。ボートで海を渡り、線路を歩く姿など海外の報道は増えたが、国内には難民が少なく、接する機会はあまりない。日本で暮らす難民申請者たちに、逃れてきた経緯やいまの思いを聞いた。20日は「世界難民の日」。
■生まれは難民キャンプ
「好きで難民申請したわけではない。他に自分を守る選択肢がないからと分かってほしい」
2011年11月に来日し、京都市で暮らすアフガニスタン出身のイーダック・モハマッド・レザさん(34)はこう話す。
アフガニスタンの少数民族ハザラ人だ。ヘラートという都市で、孤児のために活動している日本のNGO「ラーラ会」の職員として働いていた。すると反政府武装勢力タリバーン派から「キリスト教に改宗した」という根拠のない理由で死刑宣告を受け、自宅を襲撃されるなど迫害を受けるようになったという。身の危険を感じ、NGOの助けで日本に来た。
難民認定を申請したが、アフガン政府がタリバーン派を取り締まっているなどとして認められなかった。昨年1月、不認定処分の取り消しを求め、提訴した。
政情不安に翻弄(ほんろう)され続けている人生だ。旧ソ連のアフガン侵攻で紛争が起こり、生まれたのはイランの難民キャンプ。10歳ごろ送還され国に戻った。約20年で再び国を離れることに。
NGOの支援のもと同志社大学に入学。4年生で公共政策などを学ぶ。現在の在留資格は来年6月までの留学ビザだ。レザさんは、専門性を身につける方が就職しやすいと考え大学院に進学を希望している。「難民と認めてもらえるかは日本の国次第。今は危険で帰国できない。日本で暮らせる在留資格が欲しい」
■先見えず、ふさがる気持ち
ウガンダ出身で関西地方に暮らす40代の男性、モーゼスさんは、日本に来て10年になる。野党に入り民主化運動をしていたところ、政府から何度も襲撃されて国を離れることを決意。07年2月、短期滞在ビザが早く下りるという理由で日本を選んだ。
08年3月、不法滞在の容疑で入国管理局に逮捕された。約9カ月間、施設に収容されたがその後、一時的に身柄の拘束を解かれる「仮放免」が認められた。いまもその状態が続く。毎月1回、入管に出頭し、許可を更新している。
健康保険証を持てず、病院に行くと全額が自己負担になる。数年前、おなかや足が痛くなって病院に行くと、支払いは検査や薬代を含め5万円に。以来病院から足が遠のいた。
就労することも許されない。ウガンダにある不動産の収入、年約150万円を送金してもらい、何とか生計を立てているという。先の見えない生活に、気持ちがふさがる。「自分は日本にもウガンダにも属していない。役立たずの人間のように感じる」
■なるべくひっそりと
名古屋市で生活するパキスタン出身の男性(45)は今年3月、難民申請は認められなかったが、「人道的配慮」として「特定活動」という1年の在留資格を得た。
06年から、アフガニスタンとの国境近くの部族地域で私立の女子校を経営。過激派の反政府勢力「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」により女子教育をやめるよう脅迫を受けた。学校は破壊され、男性は拉致された。07年、ブローカーを通じて出国。各国を転々とし、日本で暮らし始めたが、不法滞在が発覚し入管に逮捕された。その後すぐ難民認定の申請をした。
「これまでは表だって仕事ができず、なるべくひっそり暮らしてきた」という。2年前に結婚した日本人の女性と2人で生活を充実させたいと考えている。「日本は平和でも世界には紛争や迫害で国を追われる人たちがいる。シリア難民もそう。そうした事実に日本の人たちはもっと目を向けてほしい」と話す。(北村有樹子)
■基準厳格、昨年の認定27人
紛争などにより国外に逃れた難民や国内避難民の昨年の総数は、世界で6千万人を大幅に超える見通しだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が昨年末発表した推計で、第2次世界大戦以降、最多で、122人に1人が家を追われたことになる。難民は推計2020万人で、1992年以来最多。出身国は2011年から内戦が続くシリアが最も多く、アフガニスタン、ソマリアが続く。
一方、法務省によると日本で難民認定を求めた人は昨年は7586人。5年連続で過去最多を更新した。国籍別ではネパール人が最多(1768人)で、インドネシア人、トルコ人が続く。10年から、在留資格があれば難民認定の申請の半年後から就労が認められるようになり、就労や定住目的の申請者が急増したとみている。認定されたのはアフガニスタン人6人など27人。日本も加わる難民条約は「人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受ける恐れがある人」を難民と定義。日本は条約を厳格に解釈し、紛争から逃れただけでは難民と認めていない。このほか「人道的な配慮」として79人が在留を認められた。
元UNHCR駐日代表の滝澤三郎・東洋英和女学院大学大学院客員教授は「日本は受け入れが少なく、難民に接する機会がない人がほとんど。結果、『対岸の火事』ととらえがちだ。難民問題は国際社会のあり方を理解する一つの切り口なので、関心を持って欲しい」と話す。
■「世界難民の日」関連イベント
◆難民問題―世界の良心に呼びかける 14日午後4時40分、京都市上京区今出川通烏丸東入の同志社礼拝堂(同志社大学今出川キャンパス)。国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所副代表の小尾尚子さんが、世界の難民問題について講演。同大院グローバル・スタディーズ研究科の内藤正典教授はシリア、トルコ、ヨーロッパにおける現状について話す。無料。問い合わせは良心学研究センター(075・251・3343)。
◆世界難民の日関西集会 26日午後1時半、大阪市北区天神橋6丁目の市住まい情報センター。京都市のラジオ局で「難民ナウ!」という支援番組を制作する宗田勝也さん、NPO法人難民支援協会の石井宏明常任理事が、国内外の現状や難民支援について講演。難民本人のスピーチもある。資料代1千円(学生は500円)。問い合わせは在日難民との共生ネットワーク(rafiqtomodati@yahoo.co.jp)。