(社説)難民問題 法務省任せで良いのか

(15/9/16 朝日新聞)

2015年9月16日05時00分

欧州へ押し寄せる難民をめぐって、各国が受け入れを表明している。カナダや豪州、ベネズエラなどに続いて、オバマ米大統領も年間1万人の受け入れを準備するよう指示した。

こうした中、外国人の受け入れに関して今後5年間の政府方針となる「第5次出入国管理基本計画」が決定された。

難民の認定に新たな枠組みを加えて受け入れを広げる一方で審査の仕組みは厳格化した。計画がうたう「難民問題に国際社会の一員として」あたることにつながるのか、はっきりしない。大まかに言って、計画はそんな内容だ。

そもそも、出入国管理の観点だけで難民問題に向かうことには無理がある。計画をまとめた法務省任せにせずに、省庁を横断した政府全体での取り組みが求められる。

今回の決定に先立って法務省が6月に公表した計画案は、難民審査を厳しくするという面に偏っていた。このため、国連難民高等弁務官事務所などが懸念を表明していた。

計画では、アフリカで女性器切除を強要されている女性など「新しい形態の迫害」を受けている人を難民認定の対象に加え、国際標準に一歩近づけた。難民には認定しないものの、紛争避難者の在留を人道的な配慮から認めることも明確にした。

しかし、紛争避難者の保護を広げることにつながるのかどうかは不透明だ。さらに、就労目的など明らかに難民にあたらない申請が多いとして、審査の厳格化もうたっている。

難民問題を扱う際に「偽装」や「不正」を防ぐ法務省の観点も必要だろう。しかし、それが全てであるはずがない。昨年、日本が受け入れた難民は11人。これまでの延長では国際的な責任を果たせないことは明白だ。

動かすのは、政治家のリーダーシップである。ところが、欧州難民について、菅官房長官は7日の会見で「現時点で具体的な支援策を追加することは考えていない」と発言。上川法相も15日「国際社会と連携をとる」と原則論に終始した。

難民問題では日本にも実績がある。1970年代に始まったベトナムやカンボジアなどのインドシナ難民だ。当時、日本も1万1千人を超える人々に定住を認めている。

途方もない数の難民は深刻な人道問題であり、世界全体での取り組みを促している。「積極的平和主義」を掲げる政権なら、日本に何ができるのか、具体策について真剣な検討に入るべきではないか。