(19/5/13 京都新聞)
子どものいる非正規滞在外国人を入管当局が拘束、施設に収容する際、子どもを親から分離し児童相談所に保護を依頼したケースが2017年に急増、引き離された子どもは全国で28人に上り前年の7倍になったことが12日分かった。法務省が野党議員に開示した資料を共同通信が入手した。
入管施設は現在、子どもを受け入れない。入管当局は従来、親子別離による子どもの精神的負担を考慮、子を持つ外国人は原則、拘束せず退去強制手続きを進めてきたが、近年の非正規滞在者対策の厳格化で配慮が揺らいだ可能性が示された。
米トランプ政権は非正規移民の親子分離収容で批判を受けたが、日本でも親子分離が引き起こされているといえそうだ。
資料によると、保護者の収容を理由に入管当局が児相に保護を依頼した子どもの人数は13年と14年が2人、15年1人、16年4人、17年は28人。出入国在留管理庁は「児相に保護を依頼した子どもの人数は公表情報ではない」とし、急増理由を明らかにしていない。18年分は未集計だが公表予定はないという。外国人の人権に詳しい弁護士らは「子どもを放って逃亡する親は通常おらず、不必要で無意味な収容だ」と批判する。
入管庁の担当者は「米政権は不法移民の親子は分離されてしかるべきだとの立場だったが、日本は子どもに配慮している。児童の収容は好ましくなく、親も原則、在宅(拘束しない)で退去強制手続きを進める」と説明。「養育放棄のように親の監護能力がない場合などは親を収容せざるを得ず、児相に子どもの保護を依頼する」と話した。
だが、成田空港で17年、入国を拒否され、すぐに拘束されたトルコ出身の男性(29)は妻(24)と別々に収容され、未就学の子ども2人が児相に送られたと証言、監護能力と無関係に親子が分離されており、外国人支援者らは入管庁の説明を疑問視している。
非正規滞在外国人 在留資格を持たずに日本に滞在する外国人の総称。査証(ビザ)などが定める滞在期限を過ぎた不法残留や、偽造旅券による不法入国などが含まれるが、母国での迫害で命の危険があり日本政府に保護を求め難民申請中の場合もある。非正規滞在でも一般社会での生活を認める「仮放免」の扱いを受けられるが、就労は禁止されるほか、強制送還の恐れが常にある。政府は「不法滞在」と表現するが、実質的に日本の労働力など社会の機能を支える一部になっているとの見方もあり、近年「非正規滞在」との呼び方が増えている。
非正規滞在外国人の親子分離
安否分からず「毎日不安」
入管庁「伝えている」と主張
「二度と離れ離れになりたくない」―。難民としての保護を求め来日したが成田空港で入国拒否、家族ばらばらにされたトルコ出身のクルド人一家が共同通信の取材にその衝撃と悔しさを語った。子どもの居場所が分からず、無事かどうか不安が募ったと振り返った。
「何があっても入国させない」「難民申請は韓国とか他の国でしてください」。2017年春、成田空港。一家の話によると、入国拒否後、空港内の一室で入管職員に事情聴取を受けた。十数人の職員があわただしく出入りし心配になる。聴取は3時間にわたり、机をたたく職員も。電話通訳を通じて言われた言葉にショックを受けた。「子どもたちとは引き離す」
父親の男性(29)は職員3人に連れられ空港内の収容施設へ。抵抗する妻(24)も、簡易ベッドで休む当時4歳と2歳の2人の息子から離され、別室へ運行された。
男性は約2週間、空港の収容施設に拘束の後、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)へ。妻は聴取翌日に東京入国管理局(現東京出入国在留管理局、東京都港区)に移送された。
子どもたちの居場所は、入管施設で面会活動を続ける日本人ボランティアらが探し、伝えた。「千葉市の児童相談所にいる」。妻は半信半疑だった。「子どもが無事か、これからどうなるのか。毎日不安でたまらなかった」と振り返る。
出入国在留管理庁は「児相に保護を依頼すれば、必要に応じて子どもの居場所を理解可能な言語で伝えている」と説明。だが、夫婦とも入管職員から居場所は伝えられなかったと証言、入管庁の説明と食い違っている。
約1カ月半後、東京入管で妻は子どもたちと面会した。職員は面会だとだけ告げ、連れて行かれた一室で目に入ったのは息子2人の姿。喜びに号泣し駆け寄る。だが、長男はおびえた様子でぽつりと言った。「ママ、生きていたんだね」
男性は15年夏、トルコ南東部で治安部隊に拘束された。一家は危険を感じ欧州を目指したが査証(ビザ)が取れず、行き先をビザ不要の日本に変更した。一家は数ヵ月間入管施設と児相に入れられた後、就労禁止などの条件で拘束を解かれ、難民認定を待ちわびる。いつ再収容されるか不安は消えない。
「家族が引き離されるよりは死んだ方がましだと思った。妻や子どもとの分離は30年の人生で一番つらい出来車だった」。男性が振り返ると、妻は小さくうなずいた。
帰国に追い込む政策
国士舘大の鈴木江理子教授(移民政策)の話 在留資格のない非正規滞在外国人の家族分離が急増したことは、法務省が帰国を促すため外国人を追い込む方針を強化したことを示している。子どもと引き離される親の精神的苦痛は計り知れず、分離させられるのならば帰国を選ばざるをえないと考える外国人もいるだろう。非正規滞在でも、母国で迫害の恐れのある難民申請者や日本で地域社会に根ざし長期間暮らす外国人もいる。そして何よりも、子どもの成育に親の存在は欠かせない。個々の事情を考慮し、人権尊重の原則のもとで在留特別許可の是非を判断すべきだ。
【写真】 二度と家族離れ離れになりたくないと話す妻。最近生まれた赤ちゃんを見つめる=1月、埼玉県内