(17/9/20 中国新聞 社説)
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャが治安当局の暴力に追われ難民になっている問題で、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相はきのう国会で演説し、対応を表明した。
国際的批判が高まる中、事態の改善に尽くしている姿勢をアピールしたかったのだろう。「平和と安定、調和に向けた取り組みを続ける」などと述べたが、事実上の最高指導者であるスー・チー氏がこれまで手をこまねいてきたために、状況が深刻化したことは否めない。
目の前に明白な人道危機があるにもかかわらず、演説は具体性を欠いた。「なぜバングラデシュに逃れているのか検証したい」。人ごとのようで、批判への弁明に聞こえたのが残念だ。
民主化運動でノーベル平和賞も受けたスー・チー氏は、国際社会を失望させないよう、批判を受け止めて行動してほしい。
ロヒンギャは西部ラカイン州に暮らし、100万人いるともいわれてきた。仏教徒が9割を占めるミャンマーでは少数派で、「不法移民」として差別され、政府から自国民とは認められていない。
国連人権高等弁務官事務所は今年2月、治安当局が殺害や暴行に組織的に加担したという報告書を公表した。国連は独自に調査団を派遣する決議も採択したが、ミャンマー政府は拒否してきた。こうした迫害を放置するような態度が事態をエスカレートさせたのではないか。
8月下旬、ラカイン州でロヒンギャ武装集団が警察施設などを次々襲撃したのに対し、治安部隊が掃討作戦を展開、数百人が亡くなった。多くの一般住民も殺されたという。迫害を恐れたロヒンギャは隣国バングラデシュに逃れた。難民は、国際機関の推計では40万人を超す。
難民はすし詰めの密航船に乗り、命懸けで海を渡る。しかも着いた先のキャンプは食料もテントも足りない。にもかかわらず、ミャンマー側に帰還させないよう地雷が敷かれているとの情報もあり、極めて憂慮すべき事態だ。国連のグテレス事務総長が、帰還する権利の尊重を求めたのは当然といえよう。
国際社会にとっても問題解決は急務だ。迫害されたロヒンギャの不満につけ込み、イスラム過激派が入り込む恐れもあるからだ。テロの頻発や地域の不安定化につながりかねない。
問題を重く見たグテレス事務総長と安全保障理事会は、国連総会でミャンマー政府に暴力停止を要求した。アナン元国連事務総長が率いるミャンマー政府の特別諮問委員会は、ロヒンギャの国籍を否定する法律の見直しや、治安部隊への監視強化などを勧告している。
スー・チー氏はきのうの演説で、勧告を受け入れ、難民の帰還も受け入れる方針を示した。ただ、国軍の力が今なお強く、民主化の途上にあるミャンマーの現状では、どこまで実行に移せるか見通せない。
最大の課題である憲法の民主的改正には国軍の協力が欠かせない。対立を避けたい考えもスー・チー氏にはあるのだろう。
だが軍事政権の弾圧をくぐり抜け、国民に融和と和解を訴えて行動してきた人である。言葉だけで終わらせてはならない。国際社会の期待に応えて、一歩踏み出してほしい。国際社会もしっかり後押しすべきだ。