ミャンマー難民 迫害から救う手だてを

(15/5/22 信濃毎日新聞 社説)

 ミャンマーから船で国外へ逃れた少数民族ロヒンギャの人たちが海上を漂流している。6千人を超すと推計され、衰弱して命を落とす人も多い。国内で迫害され、周辺国に受け入れを拒まれて行き場を失う人々を救う手だてを講じなくてはならない。

 イスラム教徒のロヒンギャは、ミャンマー西部におよそ80万人が暮らす。仏教徒が9割を占めるこの国では圧倒的な少数派だ。

 しかも、ミャンマー政府は隣国バングラデシュなどからの不法入国者だとして、国籍を認めていない。かつての軍事政権の時代から長く迫害を受け、差別や暴力にもさらされてきた。

 2012年には仏教徒との衝突が激化し、200人近くが死亡、14万人が避難民となった。その後も衝突は絶えない。同年以降、国外に逃れたロヒンギャは10万人余に上るという。

 今月初めにタイで、ロヒンギャの遺体が埋まった「集団墓地」が見つかった。密航を手引きした人身売買組織が、十分な食事を与えなかったり、暴行したりして死亡したとみられる。

 タイが密入国の取り締まりを強めたため、近海を漂流する船が増えたようだ。密航船の漂着が相次いだインドネシアとマレーシアは難民の大量流入を警戒し、領海内から追い返す動きに出た。

 一方、ミャンマー政府は、密航先に安い労働力の需要があることが国外流出につながっているとし、国内での迫害が主因ではないと主張。29日に各国が集まる対策会議への参加にも消極的だ。

 国連などの批判を受け、インドネシアとマレーシアは一時避難所の提供を表明したが、1年以内の移住や帰還が条件で、設置時期もはっきりしない。その間にも、洋上の人々の命の危機は迫る。

 国際社会による関与と支援の強化が欠かせない。深刻な人道危機から目をそらしてはならない。

 11年の民政移管後、ミャンマー政府はロヒンギャへの国籍付与を検討する姿勢を見せたものの、進展がない。それどころか、身分証も廃止したことでロヒンギャの立場はさらに弱くなった。

 イスラム排斥を声高に主張する仏教僧らのグループも台頭し、亀裂は深まるばかりだ。当事者による解決は見通せない。

 困難ではあっても、仏教徒とイスラム教徒の共存に向けた取り組みを前進させなければ、状況は改善しない。歴史的にもミャンマーと関わりの深い日本は、仲介役を担うべきではないか。