追い返されるロヒンギャ族 インドネシア・タイ、難民流入警戒

(2015/5/16 朝日新聞)

2015年5月16日05時00分

 ミャンマーで民族対立から追い詰められたイスラム教徒のロヒンギャ族などが乗った船が周辺国に漂着している問題で、マレーシアやタイなどが船の追い返しを始めた。難民の大量流入を警戒する措置だが、海上には6千人が漂流しているとの推計もあり、懸念の声が上がっている。

  ■「6000人漂流」国連懸念

 マレーシア政府は10日にタイ国境に近いランカウィ島に漂着したロヒンギャ族やバングラデシュ人ら1158人を保護し、施設に一時収容した。だが、同時に沿岸警備当局や海軍がマラッカ海峡沖合に船舶約10隻を展開し、密航船の排除に乗り出した。

 ロヒンギャ族らがマレーシアをめざすのは、難民認定に比較的寛容で、かつイスラム教徒が多い国であるためだ。だが、増える難民や不法移民に国内では治安面などで不安が高まりつつある。収容施設はすでにほぼ満杯で、予算の制約もある。

 タイ海軍も14日、マレーシアと国境を接する最南部サトウーン県沖で約300人が乗った船に退去を指示、領海外に押し出した。タイ政府報道官は14日、「乗船者の目的地がマレーシアなどだったため、食料などの物資を提供したうえで立ち去ってもらった」と説明した。

 10日に582人が漂着したインドネシア北西部アチェ州ロクスコン。移民局幹部は朝日新聞の取材に、「早く出て行ってほしいし、もう来ないでほしい」と話した。海軍は11日、約400人乗りの木造船を領海外へ追い出した。
 だが、14日夜には南東へ約100キロの沖合で計6隻の木造船が地元漁師に発見された。
地元の救難当局によると乗っていた約800人が救助された。

 ザイド国連人権高等弁務官は15日、ロヒンギャ族ら約6千人がいまだ海上に漂っているとの推計を示し、マレーシア、タイ、インドネシアの行為が「避けられるはずの多くの死をもたらす」と批判した。
(ヤンゴン=五十嵐誠、シンガポール=都留悦史、バンコク=大野良祐)

  ■8歳密航「父どこに」

 インドネシア北西部ロクスコンに10日に漂着し、救助されたロヒンギャ族らに記者が話を聞いた。遭難の危険もある密航船に乗った経緯や船上での過酷な状況が明らかになった。

 「お父さんに会いたい」と話したのは、ロヒンギャの女児グル・タスさん(8)。仏教徒が多いミャンマーで国籍も与えられないまま祖父母と暮らしていたが、2カ月前におじが船に乗るのを見て無賃乗船したという。母は数年前に死亡。出稼ぎに出たという父も行方不明のままだ。

 バングラデシュにある難民キャンプから来たムハンマド・ショリフさん(18)は「船では食事を満足にもらえず、動くたびにタイ人の船長に殴られた。6人が死んで海に捨てられた。上陸して安心した。キャンプには戻りたくない」。

 人々は迫害を逃れてマレーシアへ向かったが、あっせん業者が逃げて燃料が切れ、漂流した。ミャンマー西部ラカイン州から来たというモハンマド・フセインさん(29)は「70万チャット(7万6千円)を業者に払った。途中で寄ったタイで銃を持った男たちに3週間拘束された。やっと上陸したが、自由はなさそうだ」と話した。
(ロクスコン=古谷祐伸)