難民狭き日本の門 昨年の認定20人・国連指針に合意

(18/8/30 読売新聞)

与党関係者は嘆く。「世論の後押しがないと動けない」

世界的な課題となっている難民・移民問題を巡り、日本政府は7月、他の国連加盟国とともに、難民・移民の受け入れ態勢の整備を各国に促す国連の行動指針「グローバル・コンパクト」に合意した。9月以降の正式採択を前に、日本の難民受け入れの現状を追った。
(国際部 笹子美奈子、写真も)

 渋谷にテント

「世界難民の日」(6月20日)を前に、東京・渋谷のハチ公前広場で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が縦・横4メートル余り、高さ2メートル超の難民キャンプ用のテントを展示した。難民キャンプでは、約10畳の広さのテントに5人が暮らす。そんな現実を市民に知ってもらい、難民問題への関心を高めるのが狙いだ。
「このテントが家だと思って育つ子どもが多くいるのかと思うと、胸が痛む。日本も難民受け入れにもっと積極的になるべきではないか」。テントを見つめながら、千葉県船橋市の40歳代の女性は表情を曇らせた。
一方で、難民支援の寄付をしていた男子大学生(19)は、「難民を巡って欧州で起きた混乱を見ると、難民受け入れは簡単に答えを出せる問題ではない」と話した。

【写真】難民キャンプ用のテントを見学する来場者ら(6月16日、東京・渋谷駅前で)

 分担金

日本は2017年、UNHCRに米独に次ぐ約1億5200万ドル(約170億円)を拠出した。ただ、法務省が17年に難民として認定したのは、申請者1万9629人のうち20人だった。日本が難民条約にこ加盟した翌年の1982年以降の認定教は、708人にとどまっている。
難民認定数が少ないことに関し、難民支援団体RAFIQ(大阪市)の田中恵于・共同代表は「日本は難民条約にある『迫害』を厳しく解釈しているため」と指摘する。「迫害」を受けた難民が「殺されそうになった」証拠を示すのは難しい。多くの国では証言の信用度に応じて判断するが、日本では証言を裏付ける証拠を求められるケースも多いという。
別の難民支援団体の関係者は、「治安の悪化や社会の混乱を懸念する世論の影響も大きい」とみる。亡命を求める北朝鮮住民が2002年、中国・瀋陽の日本総領事館に駆け込んだ事件は、その懸念に拍車をかけた。難民問題に詳しい与党関係者は喚く。
「脱北者が日本に押し寄せたら大変だと、世論が一気に難民受け入れに否定的になった。問題意識を持つ政治家はいるが、世論の後押しがないと動けない」
日本政府は「難民問題の根本原因への対処」を重視する立場だ。難民受け入れよりも難民発生国への経済的援助などによる解決を目指し、国連への分担金で貢献する姿勢を取っている。
就労目的で難民申請するケースが横行している現実もある。難民申請者は、審査と不服申し立ての期間中、就労できるためだ。法務省は難民認定制度について、就労を大幅に制限する運用を今年1月から始め、就労目的の申請を抑止する効果が期待されている。

 法廷闘争

スリランカ出身の男性(58)は06年に日本に渡った。「民族対立で親族を殺され、自身も命の危険を感じた」からだが、難民申請は却下された。男性は国を相手取って処分取り消しを求める訴訟を大阪地裁に起こし、11年3月、勝訴した。
しかし法務省は再審査の結果、男性を難民として認定しなかった。「一般論として、時間がたてば本国の状況は変わる。申請は現状に基づいて判断する」というのが法務省側の主張だ。
男性は15年8月、裁判所が男性を難民として認定し、国がその判決を受け入れるよう求める訴訟を東京地裁に起こし、裁判所側は今年7月、男性の訴えを認めた。これに対し国は、判決を不服として、東京高裁に控訴した。
法務省によると、難民不認定の処分取り消しを求める裁判で原告側が勝訴したケースで、法務省が難民認定しなかった例は06~17年で6人いる。
日本の難民認定の現状には、中東から地中海を越えて欧州に渡る難民の増加などを背景に、国外でも批判の声がある。UNHCRも15年と17年の2度にわたり、日本政府に対し、難民の権利を定めた難民法の制定や、難民に関する事項を総合的に扱う専門部局の設置などを提案した。
早稲田大の岡田正則教授(行政法)は、「日本の難民条約の解釈が国際社会で受け入れられるものなのかどうか、検証することが重要だ」と話している。

【グラフ】日本の難民設定の状況

グローパル・コンパクト
難民・移民問題に関する国際的な責任の分担と協力をうたい、2016年の国連難民サミットで採択された「ニュー・ヨーク宣言」の具体的な行動指針。難民キャンプで暮らす人たちを受け入れる努力目標などが盛り込まれているが、法的拘束力はない。


※ スリランカ難民の裁判については スリランカ難民 勝訴後の「難民不認定」 取消求め再訴訟