生きる権利この手に 仮放免の外国人訴え

(13/4/6 朝日新聞)

◆保険なし就労も不可

「仮放免」という不安定な身分で暮らす外国人が増えている。入国管理局の施設に収容されて身柄拘束を一時的に解かれるものの、権利は保障されず、劣悪な境遇に置かれがち。制度の改善を求める声が上がり始めた。

「仮放免者に在留資格を!」。3月6日、東京・霞が関の法務省前。全国各地から集まった仮放免された外国人約350人がデモ行進しながら、訴えた。
来日し10年以上という、群馬県から来たスリランカ人の男性(58)が涙を浮かべた。「何の権利もなく、送還におびえながら暮らすのは、精神的な拷問だ」。祖国で事故にあい、左足は義足。「体に合わなくなったが、新しいものを作るお金はない」

昨年10月、仮放免中のイラン人男性、シャーラム・ザルガム・ザデさん(当時32)が名古屋市内の病院で亡くなった。
以前から頭痛を訴えていたが、保険がなく治療費が払えず、病院に行こうとしなかったという。激しい頭痛を訴え、知人の車で運ばれた。緊急手術を受けたがすでに手遅れ。脳の腫瘍は直径8センチになっていた。
同居していた女性が悔やんだ。「こんなになるまで我慢していたなんて」
亡くなった翌日。病院に集まったイラン人の知人らに職員が示したのは、約350万円の請求育。無保険患者の自費診療では、診療費の負担都合を病院が自由に決められ、この病院では150%だった。友人のつてでかき集めた150万円を支払うのが精いっぱいだったという。
シャーラムさんが日本に来たのは2007年。不法入国し、愛知県内の建設現場などで働いた。09年9月、摘発されて大阪府茨木市の西日本入国管理センターに収容された。「体制批判の詩集を出版しようとし、帰国すれば迫害される」と難民認定を申請したが、認められなかった。
脳に小さな腫瘍が見つかったのが10年春。仮放免が認められ知人の飲食店を手伝いながら暮らしたが、手術のお金はなかった。
シャーラムさんを知る40代のイラン人男性も仮放免での暮らしは8年を超えた。腰のヘルニアが悪化しているが、痛み止めで我慢するのが精いっぱい。「私たちはどうやって生きればいいですか?」 (浅倉拓也)

【仮放免】
不法滞在の外国人は原則、母国に帰国するまで入管施設に収容されるが、収容が長期化したり、体調が悪化したりすると、保証金を払った上で仮放免が認められ、収容を解かれることがある。就労や国民健康保険への加入は認められない。毎月、入管に出頭して仮放免の延長許可を受けることや、居住地以外の都道府県に行く時は許可を得ることなどが義務づけられる。

【写真】法務省前でデモをする仮放免者=東京・霞が関
【写真】ある外国人の仮放免許可書。延長許可のスタンプが並ぶ=大阪市内

◆仮放免6年間で4倍

日本から送還させる退去強制令書が出されたのは、2011年で9348件。退去強制令書を受け取りながら仮放免が認められたのは現在約2500人。滞在が長期化する傾向もあり6年間で4倍に増えた。法務省の担当者は「難民認定や日本に妻子がいることなどを理由に帰国を拒み続け収容が長期化し、仮放免するケースが増えている」と説明する。

仮放免になった外国人数百人が「仮放免者の会」を結成。(1)家族が日本にいる(2)難民認定を求めている(3)日本に生活基盤がある―などの事情がある場合、法相が在留特別許可を認めるよう求める運動を始めた。
仮放免は正規の在留資格ではないため、就労は承められず、国民健康保険に加入することもできない。一方、在留特別許可が認められれば、就労も保険加入も可能になるためだ。
仮放免者の会は今年、仮放免された542人を対象にアンケートをし、123人が「継続的な治療が必要な病気がある」と答えた。病院に行かずに持病を悪化させたり、見通しがたたない将来への不安で精神的に不安定になったりするケースも相次いでいるという。

法務省の担当者は「他の在留資格のない滞在者への影響もあり、滞在が一定期間を超えれば在留特別許可を出す、ということにはならない」と話す。
一方、入管問題に詳しい日本国際連合学会の横田洋三理事長は「難民の可能性がある人や、日本でまじめに長く暮らしてきた人は、国際人権条約の趣旨からも最低限の生活は保障されるべきだ」と語る。