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なんみんハウス資料室便り 10号

制作・編集:山村淳平、在日ビルマ市民労働組合『だまされるな!技能実習生 国家のサギに』(DVD カラー約16分)2017年 ★音声:日本語・ビルマ語

こんにちは。なんみんハウス資料室室長nonomarun@RAFIQ主催のお花見に室長もいくよ! です。

もう3月も終わり。ひゃ〜早い!! そしてバタバタの4月がやってきます。春とはいえ、寒暖の差が激しい季節。そして新生活が始まって緊張や不安、ストレスいっぱいの人もいるだろうけど、同じくらい新しい出会いや期待とドキドキもたくさんある季節。そんないろんな気持ちが空中に満ちているように感じます。とにかく、体調管理に気をつけて!

今日ご紹介するのはDVD。山村淳平氏は2017年1月に神奈川県弁護士会の人権賞を受賞され、その副賞の一部を制作費にあてて作られたのが、このDVDです(ご本人から寄贈していただきました)。貸出・上映は自由とのことなので、ご覧になりたい方は、ぜひ、なんみんハウスへ!山村氏の他のDVD・書籍もRAFIQで販売しています。

もう少し詳しく知りたい方は、なんみんハウス資料室所蔵の関連本3冊をご紹介します。

出井康博『ルポ ニッポン絶望工場』講談社+α新書、2016年7月

安田浩一『ルポ 差別と貧困の外国労働者』光文社新書、2010年6月

宮島喬・鈴木江理子『岩波ブックレット916 外国人労働者受け入れを問う』2014年12月

制作・編集:山村淳平、在日ビルマ市民労働組合『だまされるな!技能実習生 国家のサギに』(DVD カラー約16分)2017年 ★音声:日本語・ビルマ語

日本には約1万6000人のビルマ人が在住していますが、近年深刻な問題となっているのが、日本に来た実習生達に対する日本の中小企業による、人権を完全に無視した搾取労働。現代の奴隷制度とまでも言われている技能実習生制度です(ここでは触れられていませんが、留学生も同じく)。

映像の前半は、2016年3月に開かれた「ビルマ人技能実習生問題シンポジウム」から、被害にあったビルマ人実習生たちの証言があり、10代か20代前半であろう、まだ子どものようにあどけない女性達が日本で被った悲惨な体験に胸が痛くなります。ビルマ人実習生のために闘っている弁護士が技能実習生制度について「日本政府は国際貢献と言っているが、これはウソ。日本の中小企業が外国人労働者を安く使うための制度です」と断言するのが心に刺さります。後半はなぜこのような問題が起こるかということを、わかりやすく図式化して解説してあるので、この問題に初めて触れた!という方にも最適なDVDです。

日本の難民認定申請者の中には、就労・犯罪目的の偽装難民がいてそれがほとんどなんでしょ?…云々という意見をよく耳にしますが、確かにそういう方もいるのも事実。でも、そのなかにも、本来は技能実習生・研修生や留学生で夢を持って日本に来たのに、奴隷のような労働力としてこき使われて耐えられずに脱走し、借金を返すためや、帰国できないために結果的に難民認定申請をしたり、犯罪を犯すしかなかった外国人もいる、というのも事実。すぐに断定したり切り捨たりせず、それを生み出した背景や原因にもっと思いを馳せて欲しい、それは日本の制度が、私たち日本社会が、彼らを追いつめた結果かもしれないのに。と、いつも思います。

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なんみんハウス資料室便り 9号

アムネスティ・インターナショナル日本(難民チーム)編著『知っていますか?日本の難民問題 一問一答』解放出版社、2004年10月

こんにちは。なんみんハウス資料室室長nonomarun@ えっ!三日連続発信て!蝋燭は燃え尽きる前が一番輝くっていうけど、大丈夫っ!? です。

今回は、皆さんの基本的な疑問にサクッと答えてくれる図書をご紹介します。2004年発行なので、データ自体は古く、また今の国際状況は反映されていませんが、日本に関してはほとんど変わっていません(まったく、もー)。

「こんな初歩的なこと、聞いてもいいのかしらん・・」と躊躇するアナタ!「RAFIQの初級講座受けたのに、なんか基本的なこと忘れちゃったよね、あの講師の先生にとてもいまさら聞けないわ、怖っ!」というアナタ!大丈夫、このQ&Aが助けてくれます。資料室でコッソリこの本に手を伸ばしましょう。

というわけで、今回はズラっと問いのみを羅列してみました。あ、ワタシの質問がここに・・と思ったら、是非手に取ってみてね!


アムネスティ・インターナショナル日本(難民チーム)編著『知っていますか?日本の難民問題 一問一答』解放出版社、2004年10月

はじめに —難民一人ひとりの人権を守る
問1    難民ってどういう人たちですか?
問2    どんなことが理由で難民になるんですか?
問3     難民がたくさんいる国はどこですか?
 コラム1 世界難民の日 —— 六月二〇日
問4     難民と移民はどう違いますか?
問5     難民と「不法滞在者」は違うのですか?
問6     中国の日本大使館や日本人学校に駆け込んだ北朝鮮の人たちは、難民ですか?
問7     難民は日本にもいるのですか? 事例紹介1
問8     難民はなぜ日本を選び、どんな状態で来るのですか?
    コラム2 とりあえず生活できる施設はある?
問9  難民を保護する法律は日本にありますか?
問10  難民認定について教えてください 事例紹介2
問11  難民申請している間の生活はどのようなものですか?
問12  日本に難民として来た人は全員、日本で暮らせますか?
問13  難民と認められると、どんな支援を受けられますか?
問14  申請が却下された難民申請者はどうなりますか? 事例紹介3
問15  どうして収容されてしまうのですか?収容されるとどんな生活を送るのですか?
  コラム3 難民申請者の「収容」について ——日本における実態
問16  強制送還されたら、難民申請者はどうなりますか?
問17  日本で暮らしている難民の人たちが一番困っていることは何ですか?
問18  日本で暮らす難民の人たちはどのように暮らしていますか?
問19  外国ではどのように難民を受け入れていますか?
問20  難民問題を解決するにはどうしたらよいですか?
問21  難民問題に取り組む国連の動きはありますか?
  コラム4 アムネスティ・インターナショナルの難民支援活動
問22  難民の人たち(の生活)を助けるために私たちにできることはありますか?
問23  難民問題への理解を深めるために、教育現場での取り組みはありますか?
  コラム5 教育現場での取り組み
問24  日本で国内難民支援をしているNGOは?
もっと詳しく知りたい人に

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なんみんハウス資料室便り 8号

マッケンジー・ファンク(柴田浩之訳)『地球を「売り物」にする人たち 異常気象がもたらす不都合な「現実」』ダイヤモンド社、2016年3月

こんにちは。なんみんハウス資料室室長のnonomarun@二日連続の資料室だより発行は初めてよ。やればできるコなんだから! です。


Twitter、FBでも発信されましたが、なんみんハウス資料室の本に、事務所お当番ボランティアの方々が所蔵印を捺してくれました!なんみんハウスのロゴで作ったかわゆい判子を空色インクで。数冊ほど「あれっ 逆さまに捺してある!」てのもありますが、それは、別の日に鼻歌歌いながらテキトーに捺してた時に発生した事件で、犯人は室長です。てへ。レア物だから、是非見つけてみてね(^◇^;)                                                          

マッケンジー・ファンク(柴田浩之訳)『地球を「売り物」にする人たち 異常気象がもたらす不都合な「現実」』ダイヤモンド社、2016年3月

プロローグ ——気候変動に「投資」する人たち

第1章       コールドラッシュ ——カナダ、北西航路を防衛す

第2章       シェルが描く2つのシナリオ ——気候変動を確信した石油会社は何を目指すのか

第3章       独立国家「グリーンランド」の誕生は近い ——解けるほどに湧き出す請求、露出するレアメタル

第4章       雪解けのアルプスをイスラエルが救う ——人工雪と淡水化というおいしいマーケット

第5章       災害で利を得る保険ビジネスの実態 ——保険会社AIGと契約する民間消防士

第6章       水はカネのあるほうへ流れる ——投機対象になった「次世紀の石油」

第7章       農地強奪 ——ウォール街のハゲタカ、南スーダンへ

第8章       「環境移民」という未来への課題 ——「緑の長城」が防ぐのは砂漠化か、それとも移民か

第9章       肥沃な土地に「逆流」する脅威 ——バングラデシュからインドへの移民が後を絶たない理由

第10章     護岸壁、販売中 ——オランダが海面上昇を歓迎する理由

第11章     地球温暖化の遺伝学 ——デング熱の再来で盛り上がるバイオ産業

第12章     テクノロジーですべて問題解決 ——気候工学信奉者たちの楽観的な未来

エピローグ ——気候変動に関する、もっともつらい真実

地球が壊れれば壊れるほど儲かる地球温暖化ビジネスの実態。章立てをみただけで、もう気持ちがどんより暗くなるけど、ああ、人類ってそうだろうな、もう巨大利権の前に滅びるしかないわ・・・という諦めの溜息もでてしまう、この現実世界。今の難民危機に対してさえ、世界中が足並み揃わず右往左往している状態で、しかも政治的迫害じゃないと、明白な証拠がないと難民じゃないし!とかなんとか、私たちの国が、どーたらこーたらと、すんごい重箱の隅つつくような細かい「いちゃもん」で難民認定すらしない間に、すでに世界中のあらゆる場所で「環境難民(移民)」「気候変動難民」という新しい概念の難民が急増しつつあるのです。

けれどもその原因となっている背後には、豊かな先進国で暮らしている私たちの無自覚な強欲や消費爆発があることも思い知らされます。自分自身の消費形態や意識も考えさせられる一冊です。アフリカから地中海を渡って、イタリアのマルタ島にたどり着き、収容所に長期監禁されている難民の実態については、第8章を読んでみてください。

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なんみんハウス資料室便り 7号

ウォーレン・セント・ジョン(北田絵里子訳)『フージーズ 難民の少年サッカーチームと小さな町の物語 』英治出版、2010年3月

なんみんハウス資料室室長のnonomarun@今日は暖かいね!何か新しいこと、始めたくなるねっ!! です。


なんみんハウスHPに、資料室所蔵リストが公開されました!! 興味がある資料を是非みにきてね〜! そして、実は同じぐらいまだまだ室長宅にあるのです。読まないと〜(汗汗) 自分が5人ぐらい欲しい。 1仕事する 2家事する 3本読む 4遊ぶ 5酒飲む 6寝る 7…… あれ、5人では足りへん。

 
今日はアメリカに第三国定住した人々と、小さなアメリカの街の住民とのルポをご紹介します。いまトランプ政策で揺れに揺れているアメリカ政治と社会。だけど、一般の人々の人生や日常生活は同時進行で進んでいる。難民が新しい国にきて、地域住民と実際にどのように共生していくのか、あるいは受け入れ側は…?ということが、あるサッカーチームを通してみえてきます。サッカーチームの根底に流れているのは、難民だとか多文化とかというより前に、人として対等に接する(当たり前のことだけど)ということかもしれません。それを可能にするのが、少年たちそれぞれのサッカーへの情熱です。 ぜひ、手に取ってみて!!

ウォーレン・セント・ジョン(北田絵里子訳)『フージーズ 難民の少年サッカーチームと小さな町の物語 』英治出版、20103

アメリカ・ジョージア州クラークストン。人々がある日ふと気がついてみると、この小さな街に世界各国から第三国定住による難民が大量に押し寄せていました。少数派となることへの恐れや危機感から、難民を排除したがる住民や市長と行政組織。一方で、少数ですが彼らに心を寄せ支援しようとする人々。そんななか、この街に少年サッカーチーム「フージーズ」が誕生しました。少年達は生まれも人種も言語も異なります。イラク・コソボ・リベリア・スーダン・コンゴ・ボスニア・アフガニスタン・ガンビア…etc。彼らのたった一つの共通点は「難民」であること。そしてフージーズの創設者であり無償でコーチをつとめるルーマは、故郷と家族と断絶しヨルダンから移民してきたムスリム女性。すべてが異質であるこのサッカーチームは、難民ならではの紛争地脱出におけるトラウマや恐怖、家族・故郷との別れ、家庭の貧困や学校教育からの脱落だけでなく、思春期特有の問題も次々と発生します。しかしルーマは彼らにチームの規則を厳守することを一貫して要求します。それは、ルール・礼儀を守ること、厳しい練習に耐えること、そしてサッカーへの絶対的な愛情です。

練習場への妨害や住民達の偏見と排斥、言葉もわからず授業から脱落していき非行に走る少年達、崩壊していく難民家庭を、陰日向で精力的に支えながら、ルーマの厳しいサッカー指導は続き、反発していた少年達も、徐々に唯一の共通言語である英語を身につけ、チームが一丸となってシーズンの勝利へと駆け上っていきます。このように書くと、よくある青春物語のように見えますが、第三国定住・再定住や社会統合の難しさが、サッカーという身近なsportsを通じて浮き彫りにされることで、私たちにより具体的にイメージできます。著者は、『ニューヨーク・タイムズ』の記者で、多数の論文を引用し、また難民の少年達の故郷から脱出してきた事例と社会背景も丹念に取材しており、難民ひとりひとりの物語を積み重ねつつ、フージーズの誕生から成長まで追っている渾身のルポタージュです。

読みながら、あなたも時折きっと叫んでしまうはず。

「ゴー!フージーズ!ゴー!」

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なんみんハウス資料室便り 6号

アマルティア・セン(大門毅監訳、東郷えりか訳)『アイデンティティと暴力 運命は幻想である』勁草書房、2011年

みなさん!!「なんみんハウスHP」…ご、ごらんになられましたかっっ!? なんかなんか、もう嬉しいやら、いやちょっと待って、本棚がスカスカに見えるけど室長の家にたくさんあるんだから!!(読めてないだけだからっ汗)とか、PC画面に向かって叫んでみたり、左右上下にあたふたしている今日この頃!


今日はノーベル経済学賞やインド最高位の「ブラト・ラトナ賞」を受賞している著名な学者アマルティナ・センの著書を紹介します。

そもそも「アイデンティティとは複数である」と捕らえ直すことによって、他者と繋がる要素はたくさんでてくるはず。難民を発生させている紛争の根本的問題についてもクリアになり、また彼らと自分の共通点を見いだすことも、より容易になるのではないでしょうか?                      

アマルティア・セン(大門毅監訳、東郷えりか訳)『アイデンティティと暴力 運命は幻想である』勁草書房、2011年

 プロローグ

 まえがき

第1章        幻想の暴力

第2章        アイデンティティを理解する

第3章        文明による封じ込め

第4章        宗教的帰属とイスラム教徒の歴史

第5章        西洋と反西洋

第6章        文化と囚われ

第7章        グローバル化と庶民の声

第8章        多文化主義と自由

第9章        考える自由

あなたのアイデンティティは何か?と問われたら、なんと答えますか?すぐさま国籍や民族を無自覚にあげる人が大半ではないでしょうか。著者が繰り返し警鐘を鳴らしているのは、まさにそこなのです。

アイデンティティが一つに固定すると、あるいは唯一のアイデンティティ(特に顕著なのが宗教・民族・国籍・性別・言語)が押しつけられると、人は簡単に好戦的となり暴力へと走り、世界中のほとんどの紛争、政治的対立、暴力事件はこれが原因である。その背景には、世界の人々はなんらかの包括的で単一の区分法によってのみ、分類できるという偏った思い込みがある—。しかし、あなたのアイデンティティはそれだけで成り立っているわけではありません。 

例えば著者は自らを「アジア人であるのと同時に、インド国民であり、バングラデシュの祖先をもつベンガル人でもあり、アメリカもしくはイギリスの居住者でもあり、経済学者でもあれば、哲学もかじっているし、物書きで、サンスクリット研究者で、世俗主義と民主主義の熱心な信奉者であり、男であり、フェミニストでもあり、異性愛者だが同性愛者の権利は養護しており、非宗教的な生活を送っているがヒンドゥーの家系出身で、バラモンではなく、来世も前世も信じていない」、そしてこれら全てが自分のアイデンティティの一部を形成しているのだ、といいます。つまり、一人の人間が同時に所属するすべての集合体それぞれが、彼に特定のアイデンティティを与えているのです。

どうでしょうか?ご自分でも一度挙げてみてください。きっともう、書ききれないほど、あれやこれやとでてくるのでは?(そのリスト、室長のと照らし合わせてみませんか?笑)

さらにアイデンティティとは、「単一的(文化や宗教)に拘束されるのではなく、複数のアイデンティティのなかから個人が理性により「選び抜く」もの」だと。つまり、個人のアイデンティティが「社会化」すると、時に、集団レベルでの対立・紛争を誘発するゆえに、集団心理に惑わされない「個人」による理性的な判断が要請されるのです。

最後に、いま声高に理想の社会の形として提唱され推進されている「多文化主義社会」とは、実はそれは「複数単一文化主義社会」なのではないか?結局は文化や伝統は一つに固定できるという、これもまたアイデンティティと繋がる固定化ではないか?(→それがまた・・・と初めの主旨に戻る)という指摘も目から鱗です。 このように、いまや常識とされている定義あるいは認識に、今一度立ち返えることによって、複雑な問題が絡み合い混然として解決の方法も見いだせないような現代社会において、人としての根本的な軸そのものを捕らえ直すことができます(こういう、水をピュッとかけられてハッとさせられる考察が室長は大好き!)。

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なんみんハウス資料室便り 5号

坂口裕彦『ルポ 難民追跡 バルカンルートを行く』岩波新書、2016年10月

なんみんハウス資料室室長nonomarunです。


暖かくなったり春一番吹いたり、でも一気に冷え込んだり。。。屈強な(?)nonomarun室長もちょいダウン。

でも難民の方はより一層心細いだろうな。。。と思いを馳せる病床。自分に出来ることは何か?きっと皆さんも毎日葛藤されているハズ。いますぐに、誰にでもできること(そして、それはとても重要なこと)は、知ること、知ろうとすること、そして知って回りに伝えることかな…と思っています(それが資料室設立の目的の一つでもあります! ヽ(^0^)ノ押忍!)

坂口裕彦『ルポ 難民追跡 バルカンルートを行く』岩波新書、2016年10月

序章 出発

第一章 ギリシャ

第二章 旧ユーゴスラビア

第三章 オーストリア・ドイツ

第四章 排除のハンガリー

第五章 贖罪のドイツ

第六章 再会

主な参考文献

あとがき

アフガニスタンからイランへ逃れたハザラ人アリ・バグリさん一家が、ギリシャからバルカンルートを通ってドイツを目指す姿を密着同時進行ルポで紹介。各国の諸事情や難民政策により様々にルートを変えるバルカンルートですが、当時では、各国の難民移動専用列車によって、とにかく難民をドイツまで押し出そうとハイスピードで運ばれていく様子が衝撃的。一家族を追うことで、漠然と「難民」というカテゴリで見てしまいがちな人々が、「同じ生身の人間」として浮かび上がります。

また、単なるルポではなく、歴史的背景なども折り込んであり、とても読みやすくお勧めです。本書発行前に、RAFIQとも連携している「RAWAと連帯する会」主催の講演会で著者の講演を聴きました。プレゼンがとても魅力的で最後には日本の難民問題にも言及され、本書発行日を心待ちにして購入しました。そして本書あとがきを読んで、びっくりして、ホロっときたnonomarun室長でした。 新書だから読みやすいです。ぜひ読んでみてね!


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なんみんハウス資料室便り 4号

パトリック・キングズレー(藤原朝子訳)『人類に突きつけられた21世紀最悪の難問 シリア難民』ダイヤモンド社、2016年11月

こんにちは。なんみんハウス資料室室長のnonomarunです。

資料室には暖房器具がないので、下の事務所に本を移動して整理していますが、なんみんハウスの階段を大量の本をもって上がり下がりするのは、かなりの緊張感を伴い(わかってくださる方、多数いますよね?)、それだけで作業を終えた充実感が得られてます(というのを、整理作業が進まない言い訳にしときます 笑) 

見かねて、シェルター入居第1号の中東難民Aさんが本を運んでくださったり。そのついでに、RAFIQロゴの書き方を特訓してもらったり。     

パトリック・キングズレー(藤原朝子訳)『人類に突きつけられた21世紀最悪の難問 シリア難民』ダイヤモンド社、2016年11月

プロローグ ハーシムの「旅」のはじまり

第1章       祝えなかった誕生日 ハーシム、シリアから脱出す

第2章       その「荷」は生きている 「第2の海」サハラを越える砂漠ルート

第3章       魂の取引 密航業者のモラルとネットワーク

第4章       屈辱からの出航 ハーシム、密航船に詰め込まれる

第5章       転覆か、救出か なぜ危険だとわかっている航海に乗り出すのか

第6章       ストレスだらけの「約束の地」 ハーシム、ヨーロッパで戸惑い逃げる

第7章       運命を司る「見えない線」 国境に翻弄される難民とEU

第8章       訪れた最後の試練 ハーシム、待ちわびた瞬間まであと一息

第9章       「門戸」を閉ざされて 根本から解決する方法はあるのか

第10章     世界に「居場所」を求めて ハーシム、難民認定を待つ

エピローグ そのあと起きたこと

日本の読者のために ——難民危機の最新情報

訳者あとがき

参考文献

著者は『ガーディアン』紙初の移民専門ジャーナリスト。シリアからエジプトに家族で逃れたハーシム。地中海を密航船で越えイタリアに上陸し、そこから当時難民認定がされやすく家族を呼び寄せることができるとして希望の国であったスウェーデンまで、ハーシムがひとりで様々な危険を乗り越えてたどり着くまでの克明な記録に加え、密航業者の実態やアフリカ側で待機する難民待機所の地獄のような日々、欧州各国の難民排斥政策を拒絶し、一個人として黙々と難民を救助する市民などもリポートしています。詳しくは読売新聞』書評が紹介されていましたので、そちらも参照ください。 http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20170131-OYT8T50060.html

著者が提言する欧州の難民問題解決法の部分だけでも是非読んでみてください(285-290頁)。非常に現実的で示唆に富みます。そして日本語版に寄せてくれた著者からのメッセージ「日本の読者のために」では、日本の難民政策について、彼個人の意見が述べられています。

最後に、ハーシムからのメッセージの一部を。「……戦争の恐怖、故郷を追われた苦しみ、おんぼろ船で海を渡るつらさとトラウマ、新しい習慣や文化に適応する難しさ、未来への不安、子供たちと家族の心配—−。そうした大変なことはたくさんありましたが、私は多くのことを学びました。なかでもいちばん大きかったのは、どこに行っても必ず、この暗闇をがんばって突き進もうという希望と決意を与えてくれる人たちがいたことです。……そして世界をよりよい場所にしようと努力している、あらゆる国、宗教、仕事の女性と男性にご挨拶し、愛を送ります。」

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なんみんハウス資料室便り 3号

手島悠介『親切キップだ かぎばあさん』岩波書店(フォア文庫)、1998年7月 ★ひらがな付き

こんにちは。「なんみんハウス」資料室担当のnonomarun室長です。

まずは、たくさんの書籍の寄付が持参&郵送で届きました。資料室には今回ご紹介するような本も置いていくつもりです。是非是非ご不要な本のご寄付をよろしくお願いいたします。

手島悠介『親切キップだ かぎばあさん』岩波書店(フォア文庫)、1998年7月 ★ひらがな付き

知也のクラスでは小学三年生の最後の思い出に「親切運動(アサリの貝殻の中に名前を書いてクジにして、その名前があたった人に親切をする)」をすることに。知也が当たったのはカンボジア難民のミントン。ミントンは向こうでは三年生だったけど日本では一年生になり、がんばって勉強をして今は三年生になりました。ミントンをいじめる子、仲良くする子もいろいろいるなかで、知也は国語が大変なミントンに「宿題を手伝います券」をあげようとしますが、ミントンのスピーチコンテストを聴いて、違う券にすることにしました。みなさんは、その券とは何だと思いますか?

「なんみんハウス」資料室には、このように全世代を対象としたフィクションもたくさん置いていきます。小説・絵本だからこそ、より心に訴えかけ、共感できる表現があるものです。

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なんみんハウス資料室便り 2号

「なんみんハウス」資料室担当のnonomarun室長です@真冬の資料室は寒いよ(涙)
★資料室の書籍に押す蔵書印ができあがりました!青色のインクで、ぼちぼちと押していこうと思います。
★2号も蔵書紹介デス。nonomarun室長、原作を先に読もうと思っていたけど、やっと映画『帰ってきたヒトラー』を観ました。ドイツに押し寄せる難民について、ドイツ国民の危機感と自国の歴史からくる贖罪との葛藤が見えました。と同時に、こういう題材の本(映画)が生まれる国はすごいな、と素直に思います。この映画と今回紹介する本から引用したドイツ国民の声。いろいろな事を考える、寒い夜です。      

増田ユリヤ『揺れる移民大国フランス 難民政策と欧州の未来』ポプラ新書、2016年2月

第1章       フランス人、三代前はみな移民

第2章       フランスの移民政策

第3章       人生いろいろ、人種もいろいろ

第4章       押し寄せる難民に揺れるヨーロッパ

おわりに —- 裏切られても移民に手をさし伸べ続けるフランス

  シャルリー・エブド襲撃事件、パリ同時多発テロと2015年に立て続けにフランスを襲った衝撃。これで一気に難民・移民(特にムスリム)は排除される社会になるだろうと世界中が思ったのだが、欧州で難民・移民について取材をしてきた著者は「それはある意味正しいが、ある意味正しくない」という。フランス・ドイツ・ハンガリーを中心に、各国の難民政策や一般庶民・難民の声を丹念に拾い、それでも受け入れようと草の根で活動する人々の姿、難民・移民として懸命に生きる人々の姿を浮き彫りにする。今は撤去されてしまったフランス・カレーの難民キャンプの取材(帯の写真)は貴重。

 それにしても2016年2月の本書出版から2016年末までに、ここで書かれている状況が大きく変わっているのをみると、欧州が難民危機で激しく揺れ続けているのがわかります。特にクッときた箇所は、ドイツ・ミュンヘン駅で難民の列車を歓迎するドイツの人々(難民の子どもにはドイツの子どもがぬいぐるみを渡したり)。そこでドイツ人男性(73歳)が力強く言う言葉「われわれは1945年の出来事を決して忘れてはいない」。ナチスによるユダヤ六〇〇万人の虐殺について、自分たちが立ち会ったのでも手を下したのでもないが、それでも人は自国の歴史を背負って償っていく。その覚悟が国際社会では必要なのだ、と著者は彼の言葉から考える。そして帯裏にもあるフランス裁判官の言葉「不法移民の子どもを保護して、フランス社会で暮らしていけるように育てたとしても、同化できる子は六割、後足で砂をかける子が四割いる。しかし、たとえ四割の子に裏切られたとしても、それでも目の前にいる子を助ける。それがフランスという国だ」。私たちの国はどうだろう…?

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なんみんハウス資料室便り 1号

「なんみんハウス」資料室担当のnonomarun室長です。   

第1号、まずは所蔵本のご紹介です。 

小林正典、ジュディス・クミン(溜池玲子訳)『みなおなじ地球の子 祖国は難民キャンプ』ポプラ社、1999年6月 序文:緒方貞子 ☆ふりがな付き

 「この子のかわりに写真で世界にこの悲劇を訴えたい、心からそう思う。」という小林氏の決意がこもった難民のこどもたちの写真は、時に残酷で,時に子どもらしい笑顔にホッとします。そして、こどもが同じ目線で難民のこどもたちに寄り添えるような文章がとても暖かいのです。クミン氏の「難民の明日 私たちが難民にできること」(106—107頁)の文章は、この日本で難民を支援するにあたって、暗記したいほどです。一部を紹介します。「難民に避難場所を提供できるのは、受け入れ側の政府だけです。そのほかの各国政府は受け入れ国や国際救援団体を支援するために経済的に活動をささえる必要があります。しかし、このことは、一般のひとびとが難民を助けるためにやることが何もないということではありません。私たちのだれもが、何かやれることがあります。難民を助けるということは、難民キャンプまではるばるでかけていって、キャンプで活動するとか、募金活動をしなければならない、衣類やおもちゃを難民に送る、そういった直接的なことをかならずしも意味するわけではありません。これらすべてをやることが可能だったとしてもです。それと同じくらいたいせつなのが、何が人を難民にしているかを理解すること、自分の国をはなれなければならなかった人に、顔立ちや服装がことなり、ちがうことばを話し、習慣もちがう人たちに、目を向けることです(後略)」

 →室長、これ、書き写しました、デス!