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なんみんハウス資料室便り 17号

ベンジャミン・パウエル編(藪下史郎監訳、佐藤綾野・鈴木久実・中田勇人訳)『移民の経済学』東洋経済新報社、2016 

今回のなんみんハウス資料室便りは、先日までRAFIQ初のインターンとして活躍してくれていた、eijiが寄稿してくれました!ブレイディみかこさんの本で、現代は「もはや右対左(右派左派)ではない、下対上の時代だ」という指摘があり、つまり右か左かは敵(自分たちがうまくいかないのは誰のせいか、移民か金持ちか)という違いだけであって、右左は簡単に移動する。本質は上下(格差・貧富)なのだ。これが今の室長の世界を読み解くキーワードのひとつ!! というのを考えつつ、室長も読みたいです(って、アンタ、まだ読んでないんかーい!)

それでは、どうぞお読みください!                                                                                                                                                                                           

こんにちは!

今回の書籍紹介は、我らが資料室室長nonomarunさんに代わって、eiji@3ヶ月あった夏休みが早くも終わろうとしていてドン引きしている、というか夏休み3ヶ月もあってごめんなさい。です。(室長のスタイルを勝手に踏襲)

初めましてなので、ちょこっとだけ自己紹介します。僕は、 カリフォルニア州の小さな 大学に在学しており、この秋から二年生です。今年 6月からRAFIQで様々勉強させて頂きながら、お手伝いをさせて頂いておりました。面会や事務所当番、イベント等で様々な貴重な出会いをさせて頂き、ラッキーなことに、発足したばかりのGLORRYこと若手の会でも活動させてもらうなど、RAFIQでの様々な縁と経験に本当に感謝しています。

大変お世話になった室長から、この度の書籍紹介の任を拝しまして、拙い文章ですが、自分なりに紹介させて頂きます。

昨年、トランプ氏が米国大統領に当選するに至った背景の一つに、彼の移民に対する排外的な発言があります。グローバライゼーションが進み、大量の労働力が世界から米国内に流入する中で、トランプ氏は、米国の治安の悪化や、中間層や低技能労働者の雇用が移民によって脅かされるという不安を煽り、一部の国民から熱烈な指示を集めました。

その移民排斥論を、経済学を中心とした様々な社会科学の目でぶった切り、移民の功罪や政策の可能性を検証しているのが、今回紹介させて頂く本になります。

ベンジャミン・パウエル編(藪下史郎監訳、佐藤綾野・鈴木久実・中田勇人訳)『移民の経済学』東洋経済新報社、2016 

解説

第1章           イントロダクション

第2章           国際労働移動の経済効果

第3章           移民の財政への影響

第4章           アメリカ移民の市民的・文化的同化政策

第5章           雇用ビザ:国際比較

第6章           穏当な移民改革案

第7章           移民の将来:自由化と同化への道

第8章           国境の開放化に関する急進的な見解

第9章           結論:代わりとなる政策的視点

謝辞

参考文献

索引

著者紹介

監訳者・訳者紹介

タイトルからもお分かりの通り、この本は難民問題そのものには、ほとんど触れておらず、広義に人間の移動を捉える移民問題を取り扱っています。そもそも日本では移民というものの存在が制度として存在しません。では、なぜこの本が日本人にとって重要になりうるのかということですが、米国の移民排斥論と、日本の難民問題やヘイトスピーチの根っこにあるものが感情論によるものであり、十分な学問的考察に基づいていないという共通点を見出すことができることができると思われます。また、本書で論じられるのは米奥の経済や社会や政策ですが、現在日本で存在しない移民政策を、日本でどのように実現できるかを考えるのにも、非常に参考になると思います。

第2章から第5章は、移民が受け入れ国や、輩出国、そして世界全体にもたらす影響や、現行の政策などが言及され、残りの章では、不法移民への対応や国境開放化等に関して幾つかの異なる見解を持った社会科学者による政策案が論じられています。

特に前半の章では、経済学に関するある程度の知識がないと、(少なくとも、経済学の授業を取っていない僕には)あまりよく分からない箇所がありましたが、全体的には経済学を知らないからといって読めない本では決してないので、途中でポイしないでください。笑

さて、経済や社会秩序といった面で、どのような正と負の影響の可能性があるかは、本を読めばわかるので、読んでからのお楽しみということにしておきます。ただ、人権問題に聡い皆様が、頭の中に他者の人権の”じ”の字もない、つまり自分自身の利害しか頭の中にない人をギャフンと言わしめるに足る、学問的分析に基づいた論説を知ることができるのは間違いなしです!

しかし、仮にどれだけ人間のより自由な移動が便益に繋がったとしても、それだけを拠り所に移民を受け入れるのは危険だなと僕は思いました。資本主義経済には波があるのが法則であり、中長期的に移民による正の経済効果に浴することができたとしても、ひとたび景気が後退すれば、経済的利害にのみ振り回される人は、ここぞとばかりに移民排斥論を再び掲げ、移民排斥政策を推進していくことになるからです。

というのも、米国に限らず、世界各地で高まる移民排斥の動きは、全く新しいことではなく、20世紀初めから移民排斥政策は各地で実行されてきており、その動機はやはり雇用不安や、利権の保護に専心する人々の心によるものが多くありました。(20世紀初頭、米国で日本人の移民規制がされたり。今はメキシコですね。)

もちろん、自分の生活や命を守ろうとするのは自然なことですが、カネ、カネ、カネではなく、慈悲のある人権意識を一人一人の心の中に広げていくのが、やはり一番大切だなと思った次第です。国家の伝統的なあり方についても考え直させられたり。

さて、皆様はこの本を読んで何を思い、考えるでしょうか?移民排斥や白人至上主義運動などが、最近ニュースなどで取り上げられますが、そうした動きにも敏感に反応していきたいですね!