カテゴリー: 書籍

なんみんハウス資料室便り 12号

ジグムント・バウマン(伊藤茂訳)『自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える』青土社、2017年2月

みなさん、こんにちは。
なんみんハウス資料室室長nonomarun@なんと!前号は4月1日発行であった!という驚愕の事実が発覚!! です。4月もあっという間・・・きっと5月もあっという間・・・。いやいや、毎日が充実すぎたってことで!忘れられないように、発信がんばりまする!乞うご期待(と、つい自分を追い込んでしまったけど、私はそれができるヒト…たぶん(m_m))

先日、シネ・リーブル梅田で、映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観てきました。イギリスの貧困や格差社会については、ブレイディみかこさんの著作などで知っていたけど、こうして目の当たりにすると絶句。そしてダニエルが書き記した言葉が、そのまま日本にいる難民に当てはまり、気持ちがぐーーーっときて哀しくなってしまいました。ちょうど難民不認定取り消し裁判の傍聴の帰りだったので、さらに・・・(T_T)ダニエルがしたことを、私も同じ状況にいたら、他の人にできるのだろうか?と自問しながらの帰り道、空を見上げると星がとても綺麗でした。

                                    ジグムント・バウマン(伊藤茂訳)『自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える』青土社、2017年2月

第1章          移民パニックとその利用(悪用)

第2章          避難所を求めて浮遊する難民たち

第3章          強い男(女)が指し示す道について

第4章          過密状態をともに生きるための方策

第5章          面倒で、イライラさせて、不必要な、入場資格を持たない人々

第6章          憎悪の人類学的ルーツVS時間拘束的ルーツ

訳者あとがき ——解説も含めて

人名索引

著者はポーランドのユダヤ人家庭に生まれ、冷戦時代にワルシャワ大学の職を追われイギリスに移住した経歴の持ち主(イギリスのリーズ大学名誉教授)。本書の移民・難民のテーマについては、こうした彼の個人的経験が大きく関連していると思われます。

薄い本で読みやすいのですが、少し議論が込み入る部分もあり、訳者あとがき(解説)に、各章の内容とポイントがわかりやすくまとめてあるので、まずこの部分を先に読むことをおすすめします。ここでもそれに沿って、nonomarun室長が、特に日本社会と強く関わると思った第1章と第2章をご紹介します。

第1章では、日本でも衝撃が走った浜辺に打ち上げられた難民の遺体の映像にように、連日彼らの悲劇がマスコミによって流されて世間は同情のパニック状態になるも、それは一時的でやがて沈静化して見慣れた日常のひとこまとなり「無関心化」へと向かうメカニズムと、そこから世界的規模の根本的解決策を練られないままになっていく「道徳的中立化」についての警鐘。また悲惨な状況下にある難民の姿が、国内の不遇な人々にとって「下には下がいる」という安心感や不満の解消、自尊心の回復にも繋がること、しかしその姿は「悪い知らせをもたらす使者」として非難や排斥・処罰対象にされてしまうという奇妙な社会心理学的な機制に触れています。この部分は、震災や福島原発問題と繋がり、考えさせられました。

第2章も、日本社会にも大いに関係する、最近政治家やメディアが頻用する「安全保障化」。難民の悲惨な実態や難民問題を引き起こしているグローバルな要因からは目をそらせ、難民に混じった一握りのテロリスト(主に中東出身者)への対策と国内の治安・安全対策へと問題を収束・矮小化させる動き。こうした強行策を主張する政治指導者の支持率は高まり、また難民の悲劇に関心を寄せない一般市民の道徳的後ろめたさも和らぎ解消される効果があるがゆえに、この言葉はいっそう多用されていく。

6月20日の「世界難民の日」にあわせて、RAFIQでも主催イベント(2018年7月2日)を企画していますが、今年のテーマは「日本で何ができる?世界が揺れる難民問題」。世界がこんな揺れているときだからこそ、難民の状況をみることで世界の様々な根源的な問題が見えてくるのでは?難民問題を通じて様々な問題を顕在化しよう、意識しよう、行動しよう!という気持ちが込められています。本書でも難民・移民に光を当てることによって、政治家のみならず一般の人々の心理的メカニズムや社会要因が鮮明になっています。難民・移民問題だけでなく2050年には世界人口は100億を超すと言われているこの世界で、私たちはどのような共生社会(あるいは共生しない社会)を目指すのでしょうか?